第二話 「ドウシテ、コドモたちとナカヨクしたいのですか?」

「自分さ任せろって言ったって、ブルーさ任せだら、この前はすぐに逃げられでしまったでねぁーが」

「レッドん言う通り。やっぱし、もっと静かに話しかけんと。みんな一斉に好き勝手言うかぃ、たまがって逃げてしまうんじゃねえか?」

「んだども、子どもだぢど仲良ぐするのは難しいわねー。そもそも、おいがだの言葉どご理解でぎねぁみだいだし」

「ワタシには、ミナサンのイッテルことも、よくワカリマセーン」

「おめは口出すんじゃねえ!黙ってろ!」


 あらあら、また喧嘩ですか。

 読み手の方も見てるんだから、みんな仲良くしてくださいね。

 せっかくなので、まずは自己紹介したらいかがです?


「そうだな。そんじゃ、まず私がら。

 岩手生まれの赤松、レッドど呼ばれでら。文字通り、この屋根裏を支える小屋梁こやばりのほが、垂木たるきも担当してら。よろしく!」

「わーブルー。野地板のじいたさ使われでら青森ヒバだ。水さ強いだげじゃなぐ、雑菌やカビにも強い。まさに野地板にはもってごいだびょん?」

「わしゃグリーン、宮崎県産ん杉や。こん屋根裏ではけた棟木むなぎ母屋もや小屋束こやつかといった主要部材を担当しちょる。ちなみに、宮崎は杉ん生産量第一位なんやわあ。キラーン!」

「まだ九州モン格好づげで……」

「えでねぁの。おいは紅一点、天井板の秋田杉よ。ピンクど呼んでね。おいがいながったら、こごは単なる吹ぎ抜げ。おいがいるがらこそ、屋根裏部屋どして成り立ってらんんだんて、大事にしてね」

「ワタシはカリフォルニアからきましたヘムロックスプルースです。ニホンではベイツガ米栂とヨバレテいまーす。ココデハ……」

「あー、もうい。なんで、この古民家におめみだいなやづが来るがなぁ。youは何すに日本さ?」

「ワタシにも、よくワカリマセーン。ナカマといっしょにニホンへきて、イロぬられてココにきました」

「補修用ん部材やかぃ洋材でもいいと思うたんやろう。汚し加工ちゅうか着色塗装して古材っぽう見すれば、素人には分からんし」

「彼のせいでねぁんんだんて、ブルーもえ加減、イエローさ優しくしてあげなさいよ」

「すたばってなぁ。どうもすっくりごねどいうが……」


 また揉めそうなので、その前にみなさんの紹介をお手伝いしますね。

 木造の建物で小屋組こやぐみと呼ばれるのが、屋根を構成するところです。

 その中で小屋梁は向かい合う柱と柱を繋いで屋根を支える役目を担っています。隣り合う柱と柱を繋いでいるのが桁、桁と平行に屋根の頂部に渡されているのが棟木、棟木から桁まで屋根の勾配に沿って渡されているのが垂木、垂木を途中で支えているのが母屋、母屋を支えるのが小屋束、垂木の上にある屋根の下地が野地板、というようにみなさんが互いに組み合わさっているのですが……言葉では分かりませんよね。ここは製本化されたときのイラストに期待しましょう。

 レッドの赤松さんは脂分(松ヤニ)が多いせいかギラギラした感じ。

 ブルーの青森ヒバさんは匂い立つイイ男。

 グリーンの宮崎杉さんはどこにでもいる常識人。

 ピンクの秋田杉さんはご存知の通り美人として名高く、イエローの米栂くんは飄々とした若者です。

 ところで、みなさんの話を聞いていると、やっぱり子供たちを驚かすつもりはないようですよ。


「ばって、子どもだぢど仲良ぐなるのは中々上手ぐいがねもんだなぁ」

「んだなはん。いづも驚がせでしまうばりで、すぐ逃げ出してしまう」

「わしらが声を出するごつなったんも、二十年ほど前からやかぃねー。まだ言葉としてあん子たちには伝わらんのごたるし」

「ソーナンデスカ!? だからワタシはミナサンとしかハナシができないのデスネ!」

「今頃気付いだのが? まったぐおめさんはのんびりどすた性格だはんでなぁ」

「そごがイエローのえどごろだし、んだんてこそ口うるせえブルーども仲良ぐやっていげるのよ」

「わーコイツど仲いだど? 笑わせるな!」

「ほら、そうやってごしゃいだって、あの子は笑って流してぐれるべ」

「……うーん、確がにそうだけれど」

「まぁまぁ、それよりもこどんたちと仲良うする方法を考えようちゃ」

「マエからシリタカッタですが、ドウシテ、コドモたちとナカヨクしたいのですか?」


「もう四十年ぐらい前になるがな……」

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