第7話 二人――少年と魔術の邂逅

 魔術は使えないのか、という質問に、アイアスは間断なく頷く。


「うん」


 その返答に、あー、やっぱりかーとでもいうような仕草を見せるマリー。

 しばらくそのままウンウン唸っていたかと思うと、考えるのを放棄したかのように、腕組みを解いてアイアスに向き直る。


「うーん、じゃあ、とりあえず、簡単な魔術教えるからやってみて。こう、体の中の魔力シカトゥールを一点にギュって集めるみたいな感覚で……」


 バッとマリーが腕を伸ばし、人差し指を突き出す。


「火よ《イグニス》」


 その瞬間、伸ばした指の先に、小さな火が灯る。


「って、こんな感じで……」

「相変わらずマリーは、大雑把、ね」


 隣でシータがため息をつく。


「魔術を知ってるんなら少し教えといてあげる。いーい? 魔術っていうのは、魔法という奇跡を再現する技術……魔法技術を略したものだとされているのです。魔術を扱う際に大事になってくるのが万物全てに宿る魔力シカトゥール。私たちの体の内のこの魔力シカトゥールを魔術を通して魔法に変換するのが私たち魔術師ってわけですよ! そして、魔術には五つの系統があって――」


「あーもう長い長い長い! そういう細かいことは試験の時だけ覚えておけばいいの!」

「いやいやこれは魔術を使う上で一番大事な……」

「そんなことよりやってみてよ、アイアス。さっき言ったの覚えてる?」

「むっすー」


 隣で頬を膨らませて不貞腐れるシータを無視して、マリーは話をアイアスに振る。その言葉にアイアスはチラッとシータの方を見て考えるそぶりをした後、


「じゃあ……」


 と言い、もそもそとアイアスが人差し指を立てる。

 そして、奉ジルは、先ほど教えられたばかりの言葉。


 魔術の初歩。その入口の入口。


 少年と魔術が交差したのは、まさに、その瞬間だった。


「火よ《イグニス》」


 ボンッ


 ……そして、いわゆる、爆発音がした。

 それは、魔力シカトゥールが辺りに発散する、何とも言えない感覚。


 初めは、全員、何があったのかわかっていなかった。


「……?」


 けれど……すぐに気づいた。

 服が消えていることに。

 

 服が、


「き……」


 パシン!


 二人が声を上げるよりも何よりも、まずアイアスは顔をはたかれていた。そして、本当にあっという間に部屋を追い出されていたのだった。

 当の本人は、何があったのかわかっていなかった様子だったけれど。

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