第3話


「めぐちゃんさ、漫研とはいつも昼飯食べてるけども、入学時に運動部に席だけ入れたろ?その時なかば無理矢理誘った女子いたろ。あの子、お前を友達だから気になるってたぞ。」


後々になって本人に自覚がないのに彼女を知る人がやたら多いのに気付かされた。


「また、あの、いつもの公園の広場のベンチで待ってるから。気分が悪くなったら直ぐ帰れるから。」


「はい。行きます。じゃあ、その日だね。また連絡も、、、」


「こっちからもするから。またな。」


当日の事は不安だったが、決まってしまったので一旦は忘れた。


その日は、一時間以上も前についてしまい、めぐの家に行こうか迷ったが彼女を信じた。


待ってる間は、読書。大体、2冊から3冊はリュックに入れてる。スマホは充電の持ちが心配なので、携帯充電器も準備万端だ。


ほとんど時間通りに俺の前に表れた彼女は少し違った。


眼鏡は外した。


白のワンピースにピンクのはおりもの。


自分で、素肌に合うファンデーションが見付からないからしないのでそれ以外。


おおよそは、ナチュラル・メイク。


眉墨、チーク、リップ・グロス位、つけまはあることを知らなかったらしい。


「ジョンくんに会うから。それにカラオケ苦手だけど大勢の人前に出るって聞いたから。」


「僕的には、すっぴんで良いんだけども。流石は美術が専攻だけあって、手先が器用なのかな。お化粧がとっても上手だね。」


彼女は、俯いて恥ずかしげにする様子。


僕は、彼女が倒れない様、気を使いながら、繁華街のカラオケボックスに向かう。


移動の電車はやっぱり眠ってる。肩を貸す。


着いたら騒がしいのなんの。


本当に、40人近く集めて一部屋を借りるらしい。


あいつらやりやがった。笑いを堪える。


という場合じゃなかった。大声を張り上げて叫ぶ様。


「トップ・バッターはめぐみんに歌わせてくれないか?」


「おー!えーぞ!デュエットか?」


ヒューヒュー歓声があがって、慌てて。


「ちっげーよ!めぐのピンだっての!」


めぐは、終始不安そう。


「頑張れって!度胸をつけるチャンスだから。」


耳打ちをする。


イージーリスニング、スウェデゥッシュ、英語の童謡。


迷ったがそれなりに知られてそうな選曲をしてた。


音楽の伴奏が流れる。彼女が歌い出す。


18番なのか?


最初から声は小さめであるが音程は完璧だ。


感覚がつかめたのか段々、綺麗な歌声が、所々歌手と見間違う上手さだ。


少しだけ要所要所の振り付けも入ってる。


歌い終わると暫くは誰も口を聞かない。


女子の一人が喋る。


「、、、声が綺麗だね。」


めぐは恥ずかしそうにペコリと頭を下げて、そそくさと大人数のカラオケボックスを出る。


二曲目からマイクの取り合いやら、いきなり口説く口調のギャル男やら、既にカップルがいちゃいちゃし始めたがスルー。


俺もすぐに追い掛けるが見失った。


しばらくして戻ってきたので安心した。だが。


「良かったぞ!」


「もう疲れた。帰って寝たい。」


「そういう約束だったもんな。どこ行ってたの?」


「緊張でしんどくて気分が悪くなったからトイレで隠れてた。体を起こせなくてしばらく床で横になるしかなかった。」


パニック発作だろう。


治まって良かった。


けど、トイレの床って、どうして俺に一言も言ってくれないんだ?


付き合い初めでは、未だ信用をされないのか?


まー、彼女を気遣うのが今日の俺の役目なんだから、細かい事はどうでも良い。


トイレは綺麗にしてあるけども、俺が一張羅を洗ってやりたい。


僕の、自慢話で申し訳がないけども、もう高校生だし、いろいろあって多少の苦労を強いられたのもあって、母さんに仕付けられた事もあって一通りはこなせる。


「めぐみちゃんの可愛い一張羅が汚れてない?変えて僕に渡してくれれば自宅でもコインランドリーでも洗ってあげるよ。」


だろうな。僕は、思った。


「帰ろうか。」


「おーい!」


後ろから何となく聞きなれた声。


「うちや!うち!」


「あぁ!」


「今日は誘われてんねんできたったわ。名前もまだやったな。あかりいうねん。あーちゃんがあだなやさかいによろしゅうなー。」


「それとこの子。西中出身や。東中と仲が良いみたいでめぐのこともかなり知ってて驚いたわー。」


「アダ名は、ナンシーです。よろしくお願いします。」


俺と同じで、安易に、実名で呼ばれたくない、覚えられたくないタイプか。


「よろしくな。なーちゃん。じゃないナンシーちゃんか。」


ちなみに余談ではあるが彼女のアダ名はさらに、アスカ、なつみ、いろいろあるらしい。


「めぐちゃん。顔色が良くないよ。具合が悪いの?」


朝比奈。ナイス・フォロー。


「、、、ぜんそく。」


「?」


「お薬持ってるから。ちょっと使わせて。」


見るからに苦しそう1階のソファーで休ませる。


「救急車呼ぶか?」


「大事に出来ない。少し休ませて。他の子達には言わないで。せっかく楽しんでるのに。前から計画したって聞いたから。」


こういう気の使い方が切なくなってくる。


俺、竹之内、あかりちゃん、ナンシーが付き添う。


無駄に元気な中田は飲み物を買いにいかせた。こういう事には使える。


彼女は眠ってしまった。もう慣れた。


耐性のない他は戸惑い、中田は起きたら呼んでくれとカラオケ大会に戻った。


竹之内、ナンシーはスマホで音楽を聞いてる。あかりちゃんは小説、文学書、ラノベを読んでる。


起きた。しばらくしたら落ち着いたらしい。


電車でも帰れそうというので駅まで皆で向かった。


まだ眠そうに歩く彼女。を支える。


くどい様だが3人には耐性がない事もあって一言も口を聞かないままで駅に着いた。


ベンチで恒例の膝枕。3人は立って待ってる。


竹之内が一言。


「たいへんだけどがんばったね。」


眠そうにうなずく彼女。


「間もなく、1番線に電車が到着します。白線の後ろに下がって、足元に御注意下さい。」


到着のアナウンス。


警笛と共にゆっくりと速度を落とす。


殆んど停止線の調度へ電車が停車する。


俺とめぐは電車に乗った。


電車の窓から見ると、笑顔で見送る3人。


おかしい。3人は途中の乗り換えまでは一緒のはずだ。気を使って二人にしてくれたのか?


電車では肩を貸す。眠ってる。


待ち時間はあったが少しなのでバス停で待つ。どこでも眠る。立ったままでも寝れるらしい。


バスで今日は自宅側のいつもの場所まで送る。


自販機の前。


「ホット?アイス?」


「えっと、アイス。」


カフェオレを買って渡す。


握力も弱いのか?上手く開けられらないらしい。俺がさっさと開ける。


喉が乾いて仕方がないとも言ってた。


両手でアイス・カフェオレをぐいぐい飲み干す。


一息。


「御馳走様でした。凄く美味しかった。」


「礼はいいから、年中風邪引いてるみたいな感じだしちゃんと病院に通えよ。」


「ジョンくんの言う通りにする。」


今は、しっかり起きてる様だ。まー、ずっと寝てたし。


ふと、そもそも俺のめぐに対する感情って何だろう?


言葉で表しづらい。


女、なら誰でも良い?


と聞かれると大半の漢はどう答えるのだろう?


彼女は、少なくとも特別な存在だ。


哀れみ?否。それだけなわけがない。


~愛情~とうい表現の方法が、月並みであるが取り合えず、しっくり来る。


心地よい涼しげな春らしい夜風。


「サーーー、、、」っと、音をたてて、木々の葉の靡く音。


そして二人の髪や衣服をも靡かせる。


僕は、暫くの間、無言で次に発する言葉を考えてた。


(続く)

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