第4話 カップラーメン

 私は、昔ながらのカップラーメン。立派なJASマークがあなたにも見えるでしょ?


 最近は有名店とコラボしたり特殊製法が売りだったり、いろんな子達が出てるけど、私はこれしか知らないの。昔ながらのカップラーメンよ。

 私はあなたを満たすために生まれてきたの。栄養がないなんて言わないで。塩分が多いなんて言わないで。私のせいで、例えば電子レンジで作れないことで、悲しんだり自分を責めたりしないで。


 もし、あなたに素敵な誰かができて、いつもご飯を作ってくれるなら、それってとってもいいことよ。ご飯に文句は言ったりしないこと。水を入れすぎて炊いたべちゃべちゃのご飯だって、焼きすぎて炭に近くなった干物だって、だしを入れ忘れた味噌汁だって、文句を言わずに食べなさい。野菜が足りない? じゃあ、一緒にサラダを作ればいいわ。そうね、レタスでも一緒にちぎればいいじゃない。冷たい水が、温かくなるくらいホットに仲良くね。

 あら、まだそういう人いないの。

 じゃあ、しょうがないわね。大丈夫、私がいつでも側にいる。帰りが遅くったって、いつでもあなたを温かく満たしてあげる。


 あなたが子供の時、私はあなたのそばにいたかしら。学校は土曜まであった? ゆとり?

 まあ、そんなのどうでも良かったわね。

 学校から給食を食べずに帰ってきた日、あなたは何を食べていたかしら。作り置きのお昼ご飯? ファーストフード? もし、あなたがお湯を沸かせるくらいにしっかりしてたのなら、きっと私が役に立ったはずよ。

 あなたが、私を食べるとき、ひょっとしたら、あなたはひとりぼっちだったかしら。

 私はあなたを慰めたかしら。それとももっと、孤独にしたかしら。


 ずっと食べていないと、おいしいでしょ? 久しぶりに食べるとおいしいねって、よく言われるわ。きっと、毎日食べていたら、あなたはおいしいなんて言ってくれないのね。

 でも、それでいいわ。

 たまに食べたらおいしいって言ってくれるのが、とても嬉しいの。

 だって、私じゃない、他のたくさんのものが、あなたのお腹を満たしてくれてるってことだから。

 お腹が空いてるって、とても悲しいことよ。ひもじいとつらいのは身体じゃないわ。心が辛くなるの。お金がなかったり、食べさせてくれる人がいなかったり、そういう嫌なことがたくさん。お腹が空いてるって、とても悲しくて、辛いことよ。


 あなた、山登りに私を連れて行ったのね。たくさん汗をかいて、息をぜいぜい言わして、歌なんか歌いながら、登り切った山の上で、仲間達とお湯を沸かして食べてくれたのね。

 おいしかった? 嬉しいわ。あなたの大切な思い出の一部になれたことが、私はとても嬉しいの。

 私が、一番感謝されるのは、あなたたちが心身ともに疲れ切っているとき。飢えているとき。災害の時なんてそうね。カップラーメンでも、状況によってはご馳走になる、そういうときよね。でも、そんな風な活躍は、光栄だけど悲しいわ。あなたの苦しみのせいで余計においしいなんて、そんなの嫌だもの。私はあなたが幸せになるために、それがインスタントであっても、あなたのおなかをぬくめるために生まれてきたの。

 だから、たまに食べておいしいくらいで丁度いいの。飽き飽きしてるけどしょうがないから食べようか、それくらいでいいの。おいしい栄養たっぷりのご飯の合間に、食べてくれたら嬉しいわ。

 あなたのおなかと心が、満たされてくれたら、私それでいいの。

 受験勉強の夜食だって、おやつ代わりだって、いつも頑張ってるあなたを満たしたい。あなたのお腹と心を。

 年だって、一緒に越しちゃうんだから!


 お湯を注いで、少しだけ待ってね。

 そうしたら私、いつでもあなたの役に立てるわ。

 賞味期限が意外と近かったりするわよ。捨てないでどうぞ食べてね。


 外は雪ね。

 どう? あたたかい? ……おいしい? ふふ、良かった……。


 時代は過ぎていくものだから、私もいつか製造中止になる時が来るわ。あなたが気づかないうちにひっそりと、私のラベルはお店から消えるの。

 その時、あなたは幸せかしら。おいしいご飯を、大切な誰かと、食べているかしら。

 その時はどうぞ、「あのカップラーメン、たまに食うとうまかったな」って、少しだけでいいの、思い出してくれたら嬉しいわ。

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