第2話 舞い降りた天使
僕は彼女が儚げで現実的でないとずっと思っていた。後にして思えばその事は当たり前だったのだが。だから彼女がさらっと一言だけ、
「わたし、変かな?」
と言った時、否定する事はできなかった。けれども彼女は現実にはありえないぐらい良い子だったから、
「変でも大丈夫だよ。僕はそんなところがソフィーらしいと思うよ。」
と真剣な声で言った。
と彼女は笑顔で
「ありがとう。」
と言い心から疑いもなく喜んでいるようであった。
彼女は村の外れで倒れているところを神父様に拾われて、よそ者だけど特別に村の一員なることになった。そして、僕は彼女に逢いに行くために教会を毎日訪ねている。そんなところだ。
僕は神父様を、正直に言うわけにはいかないが、説教くさいところが苦手だった。彼女を気味悪がっていた人を諭し、本心から納得させたのをみて、これは敵わないやと、その思いを強くした。
「ヒロ。天国と地獄をお前は信じるかな?」
その言葉に僕は笑って、
「信じないよ、そう言って脅かしたって僕は好きなようにやるからね?」
だって、天国と地獄なんてあるわけがない。人は死んだらこの世から消えるだけだし、死んだら最後なのだと思っていた。
「ヒロよ、私も本心を言うとな、信じていなかったぞ。だがそうではないことが今ははっきりわかる。ここは地獄だし、天国はある。ほら、天使が現れたぞ?」
そういうと神父は、
「後ろだ後ろ。天使が居るぞ」
またデタラメな説教をと思った矢先に、後ろからやさしく頭を撫でられた。ん、ソフィーかな?いや違うな。
「神父様の説法を毎日とは、感心させられるわね。」
ほらみろ、天使なんかじゃない。
「先生の授業よりは面白いので。」
ヤツは俺が通っている学校の女教師であり、綺麗な歌声で有名なこの村のちょっとしたアイドルだった。
「私の保健体育の授業に興味津々ではなかったか?お前……。」
小さな村だから一人の教師がほとんどすべての授業を担当する。この女教師はあろうことか自分の経験を語りながら保健体育の授業を行ったのだ。
「授業ではなく、先生の性癖が面白かっただけです。」
まったく、あれが授業と呼べるものなのか疑問しか感じない。皮肉を込めて言うと、
「教師ではなく、女性として私のことを見ている、ということか?競争率は激しいぞ?」
と妙にやさしい声で言う。
「棄権させていただきます……。」
「あきらめるな!男なら。」
「いいです!なら、男やめます。」
「わかった。なら、特別に明日、男にしてやろう。な?あきらめなくて良かっただろ?」
とヤツは肩を軽くトントンと叩いた。
「あの怪しい新参者より、ええやろが?」
「ソフィーは怪しくなんかありません!!」
「ほほう。図星か……。」
とその時、後ろからキュッとふんわり、抱きしめられた。やわらかい香りが自分を包む。
「嬉しい!!ヒロくん……。」
ソフィーだった。彼女は無垢で人とのスキンプを好む。それは彼女にとって特別なことではないとわかっているのに、わかっているけどさ。でも。
ソフィーはそのままキューーーッっと抱きしめてくる。そんな風にされたら、男として反応せざる得ないじゃないか……。鼓動が激しくなり、でもそれとは裏腹にこのまま動きたくなくなるほどの安心感に浸っていると。
「お前、わかりやすいな。男やめたいか?無理無理無理。無理だから!。」
と女教師に断言された。
いいところで邪魔しやがって、ヤツめ。
「ソフィー、そいつ男として反応しているぞ。危険だから、離れろな?あとは先生に任せなさい!」
「う、うん。わかった。ヒロくん、毎日気遣ってくれて、嬉しいだけだから。ありがとうね。」
こうして夢のような放課後のひとときをいつも過ごしていた。これがずっと続けばいいな。とぼんやり思った。ずっと、永遠にこうしていたいな、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます