パラダイスの仕様書
青姫そよか
第1話 荒野の繁殖地
あとは自然保護区から優良種を選び出し社会に戻すだけ。
「優良種のリストを見せてもらえる?」
科学者の女性はまだ20代に見える可愛らしい女性であった。その目は鋭くモニターに映し出されたデータにそそぎこまれている。そのキビキビした仕草からはとても想像ができないだろうが彼女は齢なんと二百歳を超えるシニアサイエンティストであった。女性は端末に話しかける。
「村落にそれぞれ管理人を新たに送り込んでください。任務は優良種の情報収集と回収です。」
彼女の顔はとても明るい。
「百年なんて、あっという間ね。もう我々は2度と同じ失敗はしないわ。」
永遠の寿命を与えられた科学者は100人に満たない。それだけ「災厄」は凄まじく、自律型戦闘マシンの排除のために多くは戦闘で命を落としたのだ。もはや、バイオ技術の知識は残っていても、そもそも永遠の寿命を与えるに値するほどの人間などいない。彼女はこの研究所の唯一の人間だった。世界に点在する研究所間のネットワーク越しに仲間と話している。
「データを見る限り日本の繁殖地はもう最終段階だな。おめでとう。そして人類の再興に乾杯!」
「人類の再興に乾杯!」
「これまでの犠牲がこれで報われる」
「慎重に優良種を選ぼう。間違えれば失敗は再び引き起こされるぞ」
「大丈夫。櫻子さんなら、きっとうまくやるさ!人類の再興に乾杯!」
声には熱がこもっていた。なぜって百年の努力が報われる瞬間がもう真近なのだから当然だろう。
「みなさん、エネルギーを無駄にしてはいけないわ。通信を切ります。きちんと進捗を報告しますから、今日はこの辺に致しましょう?ね?」
櫻子と呼ばれたシニアサイエンティストは通信を切った。そう20代に見える、目が鋭い女性だ。
「大丈夫、あの子たちなら、きっとうまく任務を遂行してくれるはずよ……。」
そして端末に命令した。
「天使たちを起動して下さい。管理人に天使の来訪をつげサポートをさせるように。実行せよ!」
これで良い。あとは彼女がプログラムした人工知能である「天使」が全て良いように運んでくれるはずである。天使は人間をパラダイスまで連れてきてくれるだろう。
「やっと人と会えるのね……」
彼女の目は潤んでいた。
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