プロポーズの日

そやなの人

プロポーズの日

 本日は晴天なり、本日は晴天なり。

 本日は晴天だけど、僕の心は荒れ模様。

 付き合って三年の彼女。ちょうど三年の彼女と座りたるは三年前した告白現場のベンチなり。

 なんか口調がおかしい。落ち着け僕。がんばれ僕。


 今日、僕は彼女にプロポーズする。


 あれ、ほんとに今日、プロポーズするのか? 関係はこの上なく良好。日取りも場所も問題ない……と思う。

「イタリアンなレストランでプロポーズとかどう?」

みたいな、さりげなく、あくまでさりげなく聞いてみたら

「おしゃれでキザなプロポーズより、思い出の場所で二人きりってほうが憧れるな」

って言ってたし。一週間前。

 大丈夫、きっと成功する。この公園こそザ・思い出の場所だし。二人きりだし。台詞もちゃんと十通り以上考えて、選んだ。


 しばらく無言の二人。ちょっとためらって、口を開きかけて、またつぐむ僕。静かにほほ笑む君。


 息を吸って。吐いて。もう一回、深く吸って。よし、覚悟を決めた。


「今日を二人の結婚記念日にしたい、です」


「陸君と千星ちゃんのこと? あの二人なら来月の六日に結婚だって」


 ……誰だ、陸君と千星ちゃん。二人とも知らない人だし、もちろん僕に知らない人の結婚記念日を決める趣味はない。

 とりあえず茶化してくるってことはごまかして、流したいのか。僕の一大決心は失意のもとに葬り去られるのか。


 そんなことを考えながら、恐る恐る君の表情を伺う。

 かわいい。いや違う、そうじゃない。いや、違うっていうのはかわいくないって意味ではなくて。違くて。かわいいより愛らしいのほうが適切ではなかろうかとか、そもそも僕の語彙でこのかわいさを表現するのが不可能ではないのかとか、そういう議論は公園の隅、お砂場にでも置いておいて。


 彼女はいたずらに成功した子供のような笑みを浮かべていた。


 まったく、これだから。プロポーズを茶化した結果、僕が怒って破局するとか考えないんだろうか。考えないんだろうな。僕が、いたずら好きで笑顔のかわいい、そんな君を心底好きだって知ってるから。君の笑顔につられて僕が笑っちゃってるの、ばっちり見えてるだろうから。


 世界一かわいい笑顔を眺めていたら、自然と君の言ってほしい言葉が頭に浮かんだ。でも、その台詞はあえて避けて。しばらくは言葉遊びに興じようか。


「僕と幸せな家庭を作りませんか」


「幸せな仮定より幸せな結果のが欲しいかな」


「毎朝僕に味噌汁を作ってください」


「別にもう作ってるじゃん」


「僕と同じ墓に入ってください」


「君って共同墓地派? 」


「君のこと、一生大切にする」


「私も私のこと、一生大切にするね」


「一緒に幸せになろう」


「なるまでもなく、幸せかなー」


「好きです。付き合ってください」


「それは三年前のやつ……って、分かって言ってるか」



「好きです。結婚してください」


「……はい。喜んで! 」


 いつだって君は、ストレートな愛情表現が好きで。

 いつだって僕は、ストレートに君のことが好きで。

 いつだって君は、ストレートに僕のことが好きだった。

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