32 ゴシェンロン山を攻略しよう!
ドラゴン族の長と話をつけるべく、ドラゴン族の本拠地であるゴシェンロン山に訪れたエウレカ達。彼らは本来の姿をあらわにしたシルクスを先頭にして霧の晴れた山道を登っていた。
霧が晴れる前は先の見えない山道を何時間も歩き続けていた。だが今、霧が晴れてから僅か30分程で山頂にたどり着こうとしていた。どうやら先程までは霧に包まれ、同じ道を歩かせられていたらしい。そしてシルクスが姿を見せたことで罠は解除された。
「シルクスがいなかったら、同じ道を無限ループしてたってわけだな。情けねぇ」
「そういえばエルナ達は穴を掘って脱出したと言っていたのう」
「それを聞いてたんなら、思いつきで行動すんなよ。せめてドラゴンの罠をどうするか決めてから動けよ、アホエウレカ」
「アホと言った方がアホなのだぞ?」
「バーカ!」
「振り回し狼!」
「無計画魔王!」
「吹き飛ばし狼!」
「ヘタレ魔王!」
「俺様狼!」
「ガキ」
「お主に言われとうないわ!」
山頂――ドラゴン族の長がいると思わしき場所に向かっているというのに、エウレカとフェンリルに緊張感はない。それどころか、子供のようなくだらない言い合いまで始めてしまった。そんな2人の姿に、先頭を歩く赤いドラゴンが小さくため息を吐く。呼気と共に微量ながら炎が吐き出される。
目の前に広がる山道は硬い岩で構成されていた。山頂へと繋がる道に洞窟と思わしきものも、ドラゴンの姿もない。代わりに山道では時折、足場を構成する岩に人1人が通れるような隙間が存在する。
「魔王様。ゴシェンロン山のドラゴンがどこに住んでいるか、覚えていらっしゃいますか?」
「洞窟、だったか?」
「洞窟は見当たりませんよ?」
「じゃ、じゃあ山頂に直接――」
「目視で確認できる距離ですが、何もありませんよ?」
「……どこだったかのう?」
「…………ゴシェンロン山の地下です。山道にある、この狭い隙間から入ります」
「……エルナの得意領域ではないか!」
「霧の無限道の中には住んでいませんよ。だから、エルナは逃げられたのでしょうね。というわけで、この穴から地下に入りましょうか」
シルクスは足先で山道にポッカリと空いた隙間を示すと、すぐさまその姿を変えた。瞬きする間にも赤い鱗を持つシルエットが小さくなり、元の白い猫型獣人の姿に戻る。人1人が入れる隙間だったのは、ドラゴンが姿を変えて入ることを前提としていたからのようだ。
「霧を超えれば、ドラゴンの姿でいる必要もありませんから。魔王様、フェンリル様。早速ここからドラゴン族の住処に入りますよ?」
シルクスの細い腕がエウレカをフェンリルから引きずり下ろす。そして、松葉杖無しでは歩けないエウレカを背負って穴に飛び込んだ。フェンリルが姿を小さくしてからそれに続く。
ゴシェンロン山の地下は山の上からは想像出来ないほど広い。実際に落下したのは3メートルに満たない距離だと言うのに、エウレカの頭上にある天井は遥か遠くにあった。
土の中をくり抜いたにしては不自然なほど広いその空間にエウレカは言葉を失う。フェンリルは口をあんぐりとあげたまま動かない。そんな2人の反応にシルクスがクスリと笑った。
「山の地下を空間魔法で広げているんですよ。最強と名高いドラゴンならでは、ですね。空間魔法は代々長が発動しているそうです。結構な魔力を持っていかれるため、若者には不可能なんだとか」
「ここに、ドラゴンがおるのか。ここに、ドラゴン族の長がおるのか」
「……ゴシェンロン山に住んでるのはドラゴンだけですから」
エウレカはまだ目の前に広がる空間を信じられないらしい。松葉杖を器用に操って壁に近寄るとその材質を確かめる。
「土であるぞ!」
「地下ですから」
「ドラゴン族の神秘であるな。一体どれほどのドラゴン族が暮らしておるのだ?」
「それは、私にもわかりかねます。私は生まれた時から魔王様のそばにいますので、生まれつき持っている知識以上のことは知りません」
「……そうだったのう。長の場所はわかるか?」
「残念ながら、それもわかりません。ひとまずこの中を歩いて探すしかないでしょう」
エウレカ達がいる地下空間は、成人したドラゴンが自由に動けるほど高い天井を持っていた。空間は左右に長く続いており、道を歩けばドラゴンのいる空間に辿り着くと思われる。しかし、未知の巨大な地下迷宮を端から端まで歩き回るような時間はない。そんなことをしていては膨大な月日が経過してしまう。
「…………そろそろこちらに来ると思っていましたよ。ようこそ、エウレカ様。そして、おかえり、愛しの同族よ」
地下迷宮をどう攻略するかでエウレカが頭を悩ませている時だった。どこからともなく地下迷宮に響き渡る、穏やかでありながらも厳かな雰囲気を醸し出す声。声に呼応するように地下迷宮の雰囲気が変わる。
「魔王様、こっちです。フェンリル様、ついてきてください」
突如聞こえた声に反応したのはシルクスであった。エウレカの腕とフェンリルの赤い首輪を掴み、声の聞こえる方向へと2人を引っ張っていく。遠くからドラゴンの荒い鼻息が聞こえた気がした。
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