19 勇者と話をしよう!
玉座の上に転がるは縄で体を縛られた勇者の姿。黒い瞳で魔王を睨みつけるも、先程までの迫力はない。エウレカの手が勇者の黒髪を優しく撫でた。
「さらわれたのはどの辺りだ? このまま疑われるのは気に食わぬからのう。我が真犯人を探し出して制裁を与えようぞ」
「んなこと信じられるかよ!」
「それでも信じてもらうしかないのう。危害は加えぬが、念の為に拘束したことは許せ。とりあえず飲み食いしながらでよい、話を聞かせよ」
反抗しようにも勇者は両手と両足を縄で固く縛られていた。どんなに信じられなくとも、ここはエウレカの言うことを聞くのが良い。そう判断した勇者が静かに口を開く。
「ギルドの仕事を終えた帰り、山でさらわれた。たしかゴルベーザ山、だったかな。ゴルベーザの町の近くにある山だ」
「ゴルベーザ? 人族の町、なのかのう?」
「人族の暮らす町に決まってるだろ! わりと人が多い、都会。魔王城からはだいぶ離れてるな」
「ギルドの仕事、というのはなんだ? 仕組みは置いとくとして、仕事の内容を知りたい」
「何って、魔物退治だよ。魔物を倒しながら山頂までの道を確保するんだ。その帰りにドラゴンに襲われて、仲間がさらわれた。あとはさっき言った通りだ」
魔物退治という仕事はさほど珍しいものではない。人族の安全を確保するために、力を持つ者達が野生化した魔物を退治し、町や道の安全を守る。野生化した魔物に襲われてからでは遅いという考えは理にかなっている。
エウレカの興味を引いたのは勇者の襲われた状況であった。任務終わりにドラゴンに襲われる。仲間がさらわれるも勇者だけを残し、わざわざエウレカの元に来るように告げる。どうにも裏があるような気がしてならない。
1番力のある勇者をさらえばいい。ドラゴンであれば任務終わりまで待たずとも人をさらえたはずだし、その場で殺すことも出来たはずだ。何よりわざわざエウレカを名指ししたことが気になる。
「山で妙なものは見なかったか? 巨大な卵とか、小さなドラゴンとか、やたら強い魔物とか」
「そういうのはなかったな。ふつーに、スライムとかグリフォンとかワイバーンとか、山にいる魔物と戦っただけだ」
「戦ってる間、異変はなかったか? やたら魔物が多いとか、上空でドラゴンやハーピーが旋回してるとか……」
「そんなの、よくあることだろ。そういや、あの日はハーピーがキャーキャーすっげー声で鳴いてたな」
ハーピーが人族の町の近くで鳴いてた。その言葉に、エウレカの顔が曇っていく。
「何人さらわれたのだ?」
「3人だ。
「気付かなかったのか?」
「突然だったんだよ。いきなり現れて、気付いた時にはヒーラーが人質になってた。その後は……わかるだろ?」
仲間1人がドラゴンの手中に収まる。仲間を助けようにもヘタに動けば仲間が潰されるかもしれない。そしてドラゴンに怯えて手を出せないまま、他の仲間が捕まっていく。勇者の身に起きた出来事を想像し、エウレカは身震いをした。
エウレカと話す過程で少しずつ勇者の心が落ち着いてきたらしい。エウレカを見つめる黒い双眸から敵意が消え、真剣に向き合うようになる。身の上話にも熱が入り始めた。
「ゴルベーザ山、ハーピーが騒ぐ、ドラゴンがさらう……ハーピーとドラゴンはおそらくグルだろう。となれば、ドラゴンがハーピーを従えているのか?」
「何ブツブツ言ってんだよ」
「今、我の知る限りでドラゴンの動向を調べさせておる。おそらく、ドラゴンが独断で動き、ハーピーに指示を出したのだろう。理由はわからんが」
「ドラゴンはあんたのペットだろ?」
「ペットはレッドドラゴン1体のみ。一応ドラゴンの数は把握しておるが、彼らは聡明でな。完全に我の支配下にあるわけではなく、協力関係にあるというだけなのだ。ペットを除いて、だが」
エウレカは魔王であり、魔族や魔物を支配する立場にある。だが頂点にいるからといって全ての魔物や魔族の行動を支配出来るわけではない。特にドラゴンは、知恵がある上に気難しいため扱いに困る魔物であった。
「……そういやあんた、『まおうチャンネル』とかいうの開設してたよな。
突然勇者からエウレカに話が振られた。ドラゴンと全く関係の無い話。にも関わらず、エウレカはその話に笑顔で応じる。
「もちろんだ。これは歴代魔王の悲願であるぞ? これに納得していない魔物や魔族もおるがのう。今は人族に理解を求めつつ、魔物や魔族に説得を試みておる。ようやく、我の考えが町にまで届いたところだな」
「悲願、だったのかよ。魔王は人族を襲いたがってると思ってたぜ。つか、納得していない魔物や魔族がいるのか?」
「野生化している魔物は当然、賛同する以前の問題じゃ。さっき話に出てきたドラゴンの中にも、人族と仲良くすることを問題視するものはおる。エルフはようやく他の魔族に対して心を開くようになったところだし……先は長いな」
エウレカは寂しさの混じった笑みを見せる。困ったように頭頂部の黒い巻角に触れ、頭上のシャンデリアに目を向ける。
「お前、本当に魔王なんだよな?」
「もちろんだ! 我こそは130代目魔王、エウレカであるぞ!」
「おお、動画の決め台詞! 生で聞けるとは思わなかったな。つか、なんで魔王が動画配信始めたんだよ」
勇者が呆れ顔でエウレカに尋ねる。無理もない。動画配信を行う魔王も人族と仲良くなろうとする魔王も聞いたことがないからだ。いつしか勇者は、襲うはずだった魔王の人柄に惹かれていた。
「人族の方で流行っているからだ。魔族でも見る者はおる。ともなれば……動画配信した方が、我の試みをより早く浸透させることが出来るだろう?」
「うわっ、魔王らしくねーんだけど」
「そして願わくば、年内には人族と会談を行いたい! 野生化した魔物と我の考えに賛同しない魔族達をどうするかが焦点だ」
「うわっ、魔王のくせにガチに考えてんじゃん」
「我は真剣だ。人族と魔族が交流する世界を作りたい。そのためなら、どんな事でもやろう。例え、我のリアクションが求められようとも、頑張るぞ!」
「……それ、動画の撮影者に遊ばれてるだけだろ!」
いつしかエウレカと勇者はいがみ合うのをやめ、世間話を始めていた。真剣に話し、笑い、ツッコミを入れる。その光景が撮影されているとは夢にも思わずに……。
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