4 スライムゼリーを作ろう!

 魔王城には厨房とは別にキッチンがある。厨房は使用人が料理を作る場所。キッチンはエウレカが料理をしたい時に使う、魔王のプライベートルームに設置されたものである。


 キッチンには、スライムゼリーを作るのに必要なものが用意されていた。


「えー、材料は……水洗いしたスライム1匹、砂糖160g、ジュース1リットル。具材を入れたい方は具材も用意、ジュースは好きな味で構わんそうだ。我は大好きな『いちごミルク』を用意してみたぞ」

「魔王様、さすがに『いちごミルク』は合わないかと。せめてオレンジジュースとか、味が濃いものにしましょう。果汁の割合が多いものにしましょう」

「むぅ。仕方あるまいな。では、二番目に好きな『白桃ジュース』で我慢するとしよう」


 エウレカは材料について説明すると、すぐに調理を開始する。まず初めに用意したのは、人間の頭部が2つほど入るであろう巨大な鍋。そこに、いきなり水洗いしたスライムを入れる。


 スライムだけを入れた鍋はすぐさま火にかけられる。水を入れたり蓋をしたり、ということはしない。ただスライムを入れ、熱するだけ。ここまではスライム風呂とそう変わらない作り方だ。


 スライムの入った鍋は熱せられ、湯気を放った。時折木ベラを使って鍋の中にいるスライムを掻き混ぜる。スライムは熱するとその弾力性、粘性が弱くなる。


「スライムは熱すると小さくなるらしい。ゼリーに使える状態になる頃には、水に換算して1リットル弱くらいになるそうだ。火にかける時間は……強火で10分、らしい」


 黙々と木ベラを使って鍋を掻き混ぜるエウレカ。その表情がどこか楽しそうなのは、美味しいものが作れると確信しているからだろう。


「魔王様、具材はどうされます?」

「あ、具材……梅干しとかいれたらおいしいかのう? 具材に使えそうな好物と言えば梅干し、桃、いちごの三択しかないのじゃ」

「なぜその三択で梅干しを選ぶんですか。せめて桃かいちごにしましょう、魔王様」

「……仕方あるまい。では、切らなくても使えそうないちごを――って冷蔵庫にないではないか!」


 スライムを火にかけている間、ゼリーに使う具材を切っておく。だが今、エウレカの手元には具材として使えそうな果物は残っていなかった。冷蔵庫に残っているのは何故か梅干しのみ。


「仕方あるまい、ここは梅干しで――」

「具材は無しにしましょう。美味しいもの、作りたいですよね?」


 梅干しを推すも否定され、エウレカはわざとらしく口を膨らます。シルクスとのやり取りは、しっかりとカメラに収められていた。





 スライムが適度な硬さを持つようになると、その鍋に白桃ジュースと砂糖を加える。あとは温めながら味を確認し、必要に応じて砂糖などを加える。


 中身をよく混ぜたら、器に入れて冷蔵庫で冷やすだけ。スライムをゼラチンの代わりにするため、ゼラチンを溶かす手間はない。冷やせば固まり、程よい弾力を持つゼリー状物質となる。


「スライムの大きさのせいか、結構な数が作れるぞ。これは……10人前くらい、なのか? 1人で食べるには少し多すぎるぞ」

「戦闘後にパーティーメンバーで食べるのに向いてますね。共闘で汗を流した後に冷たいゼリーを1口。とてもオススメですよ」

「ほう、その手があったか」

「まぁ、パーティー組んだことの無い魔王様にはわからないでしょうけど」

「シルクス、余計なことは言うでない!」


 固まるまではシルクスとエウレカが無駄話をして時間を潰した。



 1時間後に完成品を取り出し、スプーンを使って試食する。エウレカの感想は……。


「う、うまい! 適度な甘み、ジュースの味がそのまま。食感も良いぞ! あの忌まわしきスライムがこんなに美味しくなるとはのう」

「スライムはゼリーだけでなく、グミにも使えますよ」

「なんだと? ならば次は、スライムを使って梅干しのグミを作るしか……」

「魔王様、お願いですから梅干しからは離れてください。あれは、素人が作っても美味しくないです」


 ゼリーを食べるエウレカの手は止まらない。すぐに1皿分のゼリーをたいらげ、次のゼリーへと手を伸ばす。だが、その頭の中ではまだ梅干しのことを考えているようだ。


「魔王様、食べすぎないようにしてください」

「大丈夫じゃ」

「夕飯が食べられなくてコックに怒られても知りませんよ?」

「わかっておる。心配ないぞ」


 シルクスに忠告されても、エウレカの手は止まらない。このあと、ゼリーでお腹いっぱいになったエウレカが夕飯を食べられなくなったのは言うまでもない。

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