第78話 名付け親は田中です。
俺はポンコツ世界樹をこれからどうしようか悩んでいた。
一番いいのは『返品』なのだが、どうやらミユを味方につけたようで、常にミユにガードされていてコノハに手が出せない。
ミユに甘えるように抱きつくコノハは、その姿だけなら非常に可愛いものだが、中味が数万歳のBBAだと思うと何故かその姿が逆にイラッとする。
しかし、今のコノハは実際には四番目のミニ世界樹の依代体らしい。
とすると、四番目はミユの妹と言ってもいいわけで。
ああ、ややこしい。
そもそも四番目には自意識と言うものは存在するのだろうか?
さっきからの話を聞いている限りミユたちと違って四番目は見かけ上はミニ世界樹だが、実際は
そう考えると、まるでこの状況は悪の科学者が自分の寿命を伸ばすためにクローン体を作って自分自身を移植させるパターンみたいな物に思える。
「世界樹マジやべぇ」
思わずつぶやいた俺の言葉をコノハが聞きつけたようで、抱きついていたミユから手を離して俺の方を不思議そうな目で見てきた。
「なにがヤバイのじゃ?」
「コノハちゃんはヤバくないの」
「そうなのじゃ、ワシは人畜無害な世界樹なのじゃー」
「のじゃーなの」
何故かミユも一緒になって俺に抗議してくる。
その姿はいつもどおりカワイイのだがなんだか納得がいかない。
「いやお前ってさ、実際四番目の体を乗っ取ってるわけじゃん? 寄生植物みたいな感じで怖いなとおもってな」
「寄生植物とは失敬なのじゃ。世界樹は世界にしか寄生しないのじゃー」
世界に寄生するのかよ。そっちのほうが怖いわ。
俺がその事実に少し引いていると彼女はなぜか自慢げに胸を張って言葉を続ける。
「そもそもお主らが四番目と呼んでいる世界樹の枝は、切り離れて自我を得た他の娘達と違って今でもワシの体の一部でしかないのじゃ」
「体の一部? まぁ確かに枝は体の一部だろうけど切り離したらもう別物だろ?」
「それは素人の考えなのじゃ」
誰が素人か。
こう見えても俺は今は世界樹育成のエキスパートと呼ばれているというのに。
多分。
「ワシレベルの世界樹様になるとじゃな、切り離しただけでは完全に分離はせぬのじゃよ」
「なにそれキモイ」
「キモくないのじゃー」
俺が少し引いた顔で言うとコノハがジタバタ暴れて反論する。
「コノハちゃんはキモくないの。すっごくかわいいの!」
暴れるコノハにミユが後ろから勢い良く抱きついた。
ああ、かわいい。
俺はじゃれあう二人の姿を見てこれ以上コノハに事細かに世界樹と四番目の関係を聞く必要を感じなくなっていた。
というか四番目自体はコノハ本体と同一人格であるということさえわかればもう十分だろう。
ふと部屋の掛け時計を見る。
もう六時か。
そろそろ山田さんが帰ってくる時間だ。
コノハをこれからどうするかについては彼が帰ってきてから考える方向でかまわないだろう。
それまではミユと遊ばしておけば問題は起こさないだろう。
猫や高橋さん以外、常日頃遊ぶ相手がほとんど居ないミユにとっては実体が自分の母親とも呼べる存在だとしても貴重な友人であり同族なのだ。
俺は楽しそうな二人を部屋においてキッチンへ向い夕食の準備をする事にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
山田さんが帰ってくるまでの間、涙ながらに山田さんには自分がスペフィシュの世界樹だということは内緒にして欲しいと頼まれたからだ。
自分はあくまで四番目のミニ世界樹『コノハ』であり、
「あやつらの世界樹信仰は本物じゃ。ワシが
とか何とか言い訳を重ねてはいたが、もしかしてそれも『おもしろいから』じゃないだろうな?という疑いは晴れない。
「それにお主には……があるのじゃ」
ボソリと小さな声でコノハのつぶやいた言葉に「え? なんだって?」と難聴系主人公のような問いかけを返すが答えは戻ってこなかった。
「なんでもないのじゃ」
「それ、なんでもあるパターンじゃね?」
俺の突っ込みにコノハはプクーっと頬を膨らます。
大変愛らしい姿だが中身は数万歳のBBAである。
そんなジレンマに悩まされている間にいつの間にか時は過ぎ、隣の部屋に山田さんが帰ってきた。
しばらくするといつもの様に自然に山田さんが俺の部屋を訪れる。
正直なぜ毎日顔を見せに来るのかと突っ込みたくもあるのだが、今日は丁度コノハの件もあるので便利に利用させてもらうことにする。
「まさかこんな所にやって来ているなんて思いもしませんでしたよ」
山田さんが驚きに満ちた目で机の上でちょこんとミユの横に座るコノハを見ていた。
「すまないとおもっているのじゃー。好奇心は猫をも殺すと言うから仕方がない事なのじゃー」
コノハが意味不明な弁明をしている。
その顔には一切の反省の色は見られない。正に口だけの謝罪というやつだ。
「しかしコノハさん……でしたっけ。彼女がここまで行動的だったとドワドワ研究所からの報告にもありませんでしたから驚きです」
こいつ、猫かぶってやがったな。
おれがジト目でコノハを見ると彼女は吹けない口笛を含まねをしてそっぽを向く。
なぜか横でミユもそれを真似て同じようにそっぽを向いた。
悪い友達を与えてしまったのかもしれない。
ミユが悪の道に走る前になんとかせねば。
いつか授業中に教師に襲いかかってネットにさらされて退学になる未来を想像して少し青くなる。
うちの子に限って……なんて幻想だ。
「一応ドワドワ研究所からコノハさんの素体が行方不明になったと連絡は受けていたのですよ。それがまさかこんな所に居るとは」
説明を求めるように俺の方を見る山田さんにコノハとの経緯をかんたんに話した。
打ち合わせ通り、コノハが木花咲耶姫本人(樹?)だということは伝えない。
「そのうえまさか田中さんに名前までつけて貰っているなんて驚きです」
そう、コノハの名前は俺が名付けたことになっていた。
「研究所ではまだ名前をつけてもらってないって言ってたからね」
「そうなのじゃー。研究所では四番目とかヨンちゃんとかヨン様とか呼ばれてたのじゃー」
人のことは言えないが何ていう適当な。
「でも何故コノハなのですか?」
山田さんが余計な部分に突っ込んできた。
「それはあれだ、なんていうか見かけから『コノハ』って感じだったし」
自分でも意味不明な返事を返してしまった。
『コノハ』って感じってどんな感じだよ。
俺のその返答に山田さんは一度ミユ、次に俺の方を見て何やら小さく頷くと「なるほど、田中さんらしいですね」と納得したように言った。
何だか腑に落ちない。
「さて、それでは」
山田さんはそう言うと立ち上がり懐からいつものガラケーを取り出した。
「高橋さんたちも心配していましたし、コノハさんが見つかったと会社に連絡を入れておきますね」
「お願いするのじゃー。あと研究所のみんなに『ごめんなさい』と誤っていたと伝えてほしいのじゃー」
「わかりました」
「あ……もう一つお願いがあるのじゃ」
部屋の外へ電話をかけに出ようとしていた山田さんをコノハが呼び止める。
「なんでしょう?」
「本来ワシの代わりにココへ送られてくるはずだった銘菓は『移るんです』が設置してある机の引き出しの奥に隠して来たのじゃ」
「なるほど、それも回収するように高橋さんには伝えておきますよ」
「お願いなのじゃ。賞味期限とかは大丈夫な菓子を選んで隠したから食すには問題な……」
そこまで言いかけたところでコノハの動きが突然止まる。
「どうしたコノハ」
「コノハちゃん?」
ミユがコノハの体を支えるように抱きかかえるがピクリとも動かない。
必死にコノハの体を揺さぶるミユの姿を前にして俺は何が起こったのか理解できずに居たのだった。
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