第77話 全てにおいてぽんこつです。

「ぷはーっ、なんて事をするのじゃーっ!」


 俺が返品のために宅配便の伝票を用意している間に『のじゃっ娘』がダンボールの中から這い出てきた。


「ミユと言うたか? ありがとうなのじゃー」


 どうやらミユに助けてもらったらしい。


 なにやら『のじゃっ娘』がミユにすがりついている。


 仲の良い姉妹に見えるとかそんな事はどうでもいい。


「ミユ、そんな物触っちゃだめだろ」


「ワシはバイキンじゃないのじゃー!」


 俺の言葉にその場で地団駄を踏む『のじゃっ娘』の足元がカンカンうるさい。


 どうやら彼女は木でできた靴というか下駄を履いていて、それが音を立てているようだ。


 地団駄を踏む度に机の上で奏でられる騒音に「うるさい。静かにしろ」とつい言ってしまったのは仕方のないことだろう。


 俺のその言葉に一瞬ビクッとしてから涙目になり、側にいたミユに抱きついて泣き出したので少し罪悪感を覚えた。


 こんな(見かけだけは)小さな子に少し酷すぎたのかもしれない。


 そんな後悔を少し覚え俺は取り合えず返品を思いとどまることにした。




 どう見ても和服。それも着物っぽい服に下駄という純和風な出で立ち。


 それにプラスして髪型がおかっぱなせいでミユと違い完全に日本人形のような『のじゃっ娘』に俺は一つ提案をする。


「とりあえず返品は勘弁してやる」


「ホントなのじゃ?」


 ミユに抱きついていた『のじゃっ娘』が俺の方を不安そうな目で見てくる。


「ああ、本当だ」


「嘘じゃないのじゃ? 信じていいのじゃ?」


「男に二言はない」


 俺は涙で濡れる目を見返して総宣言する。


 すると『のじゃっ娘』は今まで涙で濡れていた目を袖でこすって涙をぬぐうとミユからサッと離れてさっき見たように腰に手を当て、ない胸を張って偉そうなポーズを取る。


「言質は取ったのじゃー」


 しまった、ハメられた。


 俺は少しイラッとして言葉を付け加える。


「俺は返品はしない。俺はしないが山田さんが帰ってきたらすべてを話す。その結果、山田さんに強制送還されても俺は知らない」


 さっきまで威勢よくしていた『のじゃっ娘』が俺のその言葉を聞いてまたもや不安そうな顔をしだすがもう騙されない。


「そ、それだけは勘弁して欲しいのじゃー」


 オロオロと俺の方に寄ってきて懇願し始める『のじゃっ娘』に俺は「勘弁しません」冷たく言い放つ。


 すると突然ミユが俺と『のじゃっ娘』の間に入り込んできた。


「お父さん、コノちゃんをイジメちゃだめなの」


 何やらおかんむりのようだ。


 というか「コノちゃん」って誰だ?


「コノちゃんは私が守ってあげるからね」


「ありがとうなのじゃー、ミユおねえちゃん」


 甘えた声でミユに抱きつく『のじゃっ娘』。


「おい、ちょっとまて。コノちゃんってお前のことなの?」


「そうなのじゃー。それがどうかしたかの?」


「どうかしたも何も俺、お前の名前聞いてないんだけど?」


「そうだったかの?」


「ああ、お前がスペフィシュの世界樹様だとしか聞いてない」


 記憶を探るがこいつが現れてから今まで世界樹だという事と『のじゃっ娘』だということしか聞いてないはずだ。


「ワシの名前はちと長いので今の体だと記憶が完璧じゃないのじゃが、木花このはななんとか姫だったはずなのじゃ」


 まさかこの娘、こんな幼女な見かけなのにすでに自分の名前すら覚えてないほどおボケになられていらっしゃる?


木花このはなというのは間違いないのじゃ。気軽にコノちゃんと読んでくれればいいのじゃー」


「では姫と」


「なんだか凄く馬鹿にされている感じがするのじゃー。ゆえにコノちゃん以外認めないのじゃ」




 しかし木花で姫か。


 まさかとは思うけどスペフィシュとやらは山田さんを始め、なぜか日本名が多いから可能性は否定できないので確かめてみることにする。



「まさかにまさかだけどお前の名前って正しくは『木花咲耶姫このはなさくやひめ』って言うんじゃないのか?」


「このはなさくや……ちょっとまっておれ、本体と記憶の照合を行うのじゃ」


 記憶の照合ってなんか凄いこと始めたな。




 彼女は数秒目を閉じて何やらモゴモゴとした後、目を開けて「その名前で間違いないのじゃー」と言った。




「本体と記憶の照合って一体何をしたんだ? というか、まさか本体の記憶はコノハ自体は持ってないってこと?」


「コノちゃんでいいと言っておるのに。まぁいい、答えてあげるのじゃー」


 なにやら偉そうにいつものポーズを取ると彼女は現在の自分自身について説明をしてくれた。




 曰く、現在の彼女は本来の世界樹から四番目のミニ世界樹と『移るんです』を利用してこちらの世界に依代体を使って顕現している。


 木花咲耶姫という名前は過去にスペフィシュへ世界同士の衝突で飛ばされた日本人によって名付けられたらしい。


 本来の世界樹の力や記憶などはあまりに膨大なため、生まれて間もないミニ世界樹の体ではそのすべてを受け入れることは出来ず、必要最低限の力と記憶しか共有できていない。


「なので、現状この依代体モードのコノハは『ぽんこつ』なのは仕様であるって感じか」


「なんじゃ唐突に。あとワシはぽんこつじゃないのじゃー」


 またカンカンと机の上で地団駄を踏み始めるコノハ。


 そういうところが『ぽんこつ』だというのに。


 憤るコノハをミユがお姉ちゃんっぽい態度でなだめている姿を見ると、本当はコノハの方が何万歳も年上だとは到底思えなかった。



「それで木花咲耶姫様は一体どんな御用で俺の家まで来たのでしょうか?」


 俺が棒読みっぽくそう尋ねると彼女は「お主にフルネームで呼ばれると何故だかイラッとするのじゃ」と呟いてから俺に向き直り答える。


「さっきも言った通り面白そうじゃったから来てみただけなのじゃ」


「やっぱり返品するか」


「男に二言はないと言ったのじゃー」


「言ったが三言はあるかもしれないだろ」


「三言ってなんなのじゃー」


「さぁ?」


「ムキーッ!」


 このポンコツ姫、からかうと面白いかも。


「とにかくじゃ、ワシも依代という手段を知った今、じっとしてなんて居られなかったのじゃ」


「え?」

 俺はコノハのその言葉に一瞬思考停止した。


「依代を知った? まさか今まで知らなかったというか依代憑依が出来なかったとでも?」


「そうなのじゃー」


 ミユたちなんかより何万年も生きて、強大な力を持っているはずの世界樹様が依代を使うすべを知らなかったなんて予想外過ぎる。


 俺はてっきりミユたちと違って等身大の、それこそ吉田さんたちみたいな女神のような依代体を持っていると思っていたのに。


「まさかこんな方法があったとは思いもよらなかったのじゃ。 他の世界に我が子らを解き放って新たな可能性を模索したワシの勝利なのじゃ」


 腕を組んで「うんうん」と頷く和服幼女を見て俺はこう思った。






『こいつ、本体もろともぽんこつじゃねーか』

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