第61話 四女神会議招集です。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああっ」
こんにちは、田中です。
今俺は美女と一緒にノーロープバンジー中です。
空気の壁という物はこれほどまでに強い物かと初めての体験に心ウキウキわくわく……なんて事は無くすでに死を覚悟している状況です。
そして頭の中では白い仮面の赤い人が「だが無駄死にでは無いぞ」と焦りながら喋っているシーンが浮かんでいた。
「いや、このまま落ちたら無駄死にですからーっ」
「あはははっ、田中くんは何をそんなに焦ってるんだい?」
隣からは緊張感の全くない自称女神様の声がする。
「だって下界に行くって普通転移門とか旅の扉みたいなのとかそんなので行くと思ってたからあああ」
そんなふうに喋るのも実はかなり辛い。
口を開けると大量の空気が飛び込んでくるのだ。
「昔はよく転移門とか使ってたんだけどね~、魔素をかなり消費しちゃうからもったいなくてさ~。節約節約~」
「そうやってお役所が節約し始めると地元の中小企業が仕事なくなって大変なんですよ! なんでも節約すれば良いってもんじゃぁぁぁぁ」
「田中くんがよくわからないことを言い始めて限界そうだからそろそろ飛ぼうかな」
「もう飛んでるじゃないですか! というか落ちてる!」
「とりあえずキミは落ち着けっと。魔力解放っ」
次の瞬間かなりの速度で落ちていた俺とヨシュアさんの体の周りに不思議な空気の渦のような物が出来たかと思うとゆっくりと二人を包み込んだ。
ふわっ。
そう表現するしか無いくらい柔らかく俺たち二人は先ほどまでの急降下状態から一気に減速し、まるで空中を漂うような状態になった。
急制動による反動すら感じなかった事に俺は驚きを禁じ得なかったが、隣で意地悪そうな笑顔で俺を見ているヨシュアさんに気がついて憮然とした態度をとる。
「どうして最初からこの力を使わなかったんですか? もしかしてまた魔素の節約とか言うんじゃ無いでしょうね?」
「それも無い訳じゃ無いけど一番の理由は単純明快に『そっちの方が早いから』だよ」
「……」
「だってボクたちの神殿から下界ってかなり遠いんだよね。これだけ落ちてきてもまだつかないでしょ?」
たしかにかなりの間俺はスカイダイビングをさせられていたのにまだ地上に着いていない。
まぁ、ついてたら死んでたけど。
「それにしても飛び降りるときはちゃんと言ってくださいよ。いきなり神殿の端についた途端に俺の腕をつかんで無理心中みたいな飛び降り方するからっ」
「サプラ~イズ」
「サプライズじゃないっ」
俺がヨシュアさんに空中でなんとか詰め寄ろうとすると突然ヨシュアさんの背中から電撃が放たれた。
「痛っ」
冬にバチッとなる静電気レベルの痛みが俺の手に走る。
「こらっ、ティコ。おいたはいけないよ」
ヨシュアさんの背中が少し光った。
今ヨシュアさんは俺が外出の時にミユの本体を入れていたあのリュックとほぼ同じような物を背負っている。
その中に入っているのはもちろんこの世界の世界樹『ティコ』ちゃんだ。
ぴょこんと飛び出した熊耳がかわいい。
よく見ると丸い尻尾の先が少しとがって俺の方を向いている。ここから電撃を飛ばしたようだ。
「世界樹って攻撃できたんだ」
俺はなによりもその事に驚愕していた。
うちの
なんかいつも受け身で魔王とかに力を奪われたりするだけのイメージで、自衛は自分で出来ずに勇者やらなんやらを召喚したりして守らせるとか。
大体の物語では結局守り切ることが出来ずに一度は悪の手に落ちちゃうんだけど。
「もしかしてもうすでにティコって悪落ちしてるんじゃ……ぐぎゃっ」
また電撃を食らった。
このヤンデレ世界樹め。これからはビリビリとでも呼んでやろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺が飛び降り心中をさせられる前まで時間を戻そう。
「四女神会議招集~~」
神々の神殿の中にあるそれほど広くない一室に四人の女神が集まった。
初めて見る長女(?)のウィンロさんはかなり眠そうな顔で時々小さくあくびをしている。
というか半眼を通り越してすでにまぶたが閉じそうである。
脳筋の女神、もとい、火の女神のエレスさんはなぜか腕組みをしている。
そしてヨシュアさんと、その隣の席をがっちりキープしているアイリィ。
ちなみに渡辺&山田組は世界樹の『外出』の準備中でここにはいない。
爺さん? 四女神会議にノイズは必要ないだろう?
「みんな揃ったところで本日の議題を発表するよ」
ヨシュアさんがそう宣言して四女神会議とやらは始まった。
議題は『世界樹の名前を決めよう』という物だった。
今までこの世界の神々が自らを生み出した先代世界樹を神聖視するあまり世界樹に対して名前をつけるという考えすら無かった。
だが、他の世界。特に俺の世界のミユという存在を知り、さらに自らの世界の現世世界樹の現状を知るにつれその考えが改まったようである。
先代の世界樹は自らの母であり創造主だが今の世界樹は逆に我が子のような物として育てていかねばならないというわけだ。
会議はヨシュアさんの司会で進んでいく。
この四人がそろったのを初めて見たが、渡辺さんがヨシュアさんを世界樹の契約者として選んだ理由がよくわかる。
他の三人がこれではどうしようもないだろう。
すべてはブラウ爺さんの特殊性癖のせいだと思うと頭が痛い。
その爺さんの指示した『設定』を何の疑いも無く受け入れて女神たちを創造した先代世界樹も大概ひどいとは思うが。
あ、そうか。そもそも先代世界樹を育てた契約者が爺さんな訳だから先代世界樹が『残念な娘』なのも仕方ないのか。
と考えるならやっぱり一番の元凶はあの爺さんだな。
俺がそんなことを再確認している間にも様々な名前が挙がってはヨシュアさんに却下されていく。
そうこうしているうちに長女は眠り、次女は脳がオーバーヒートしたのか湯気を出してつっぷしていた。
アイリィ? あの子はヨシュアさんの言うことは全肯定だから何の役にも立っていない。
しかし翻訳魔法のおかげで彼女たちの言葉が俺の理解できる言語に置き換えられているわけだが、実際今俺に聞こえてる『名前』も本来なら聞き取れる物じゃ無いはず。
現にヨシュアさんが地球に来たときに最初に喋った名前は聞き取れなかった。
ということは現在目の前で繰り広げられている会議ででている名前も変換されてるのだろう。
でなければ「とんぬら」とか「ゲレゲレ」とか「オレオマエアイツ」とかこの世界の名前として出されるのはおかしい。
結局は契約者であるヨシュアさんが名前を決めてくれということで会議は終わった。
正直最初からそうしておけよと思うが、こういうのは一応相談したという事実が大事なのだろう。
「四女神会議ってもしかしていつもこうなんじゃ?」
俺は疲れ切った表情を浮かべているヨシュアさんに尋ねた。
「よくわかったね」と力の無い笑みを浮かべる彼女に「そりゃ見ていればわかりますよ」と返事をし、隣のアイリィの蹴りを避ける。
「お姉様は四姉妹、いえ、この世界で一番優秀なのですわ」
爺さん、娘に馬鹿にされてるぞ。自業自得だと思うけど。
「だろうね。それは俺もそう思うよ」
「でしょう? やっとアナタにもお姉様の素晴らしさがわかってきたようですわね」
そこまで自慢げに胸を張っていった後俺を睨んで「でもアナタにお姉様は渡しませんわ」と言った。
シスコンはブレないな。
「それじゃボクは少し部屋で休んでから名前を考えることにするよ」
そう言うとヨシュアさんは椅子から疲れた様子で立ち上がり部屋を出て行った。
アイリィがその後をちょこちょこと歩いて追いかける。
「さて……」
部屋に残されたのは俺……と女神二人。
片方は完全に熟睡し、もう片方は頭から湯気を出し口を開けて呆けている。
「この駄女神たちはどうすれば良いんだ」
しばし考えた後、部屋の外にいるであろう侍女たちに後を任せることにして俺も部屋を出る。
特にやることも思いつかないので山田さんたちの手伝いでもしようと侍女に彼らの居場所を聞いて案内してもらい、一時間ほど雑用をこなしていると部屋にヨシュアさんが現れた。
「ボクたちの世界樹の名前を決めたよ! 名前は『ティコライ』 この世界の古い言葉で『希望』って意味なんだ」
俺たちは作業を止めてミニ世界樹『ティコライ』に話しかけるヨシュアさんを見ていた。
「やぁティコライ。これからもよろしくね」
その言葉にミニ世界樹『ティコライ』は薄く二回ほど光って返事をする。言葉が通じないので意味はわからないが。
俺たち三人はその様子をほっこりとした気分で眺めていたのだった。
その数時間後に紐無しバンジーをやらされるとはこの時はまったく思ってもいなかったけど。
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