第59話 方向性の違いです。
「この先にあるのが世界樹専用部屋だよ」
今ヨシュアさんが俺たちを先導して世界樹の元に案内してくれているところだ。
その片腕にはアイリィちゃんが昔あった腕に抱きつく人形の様にくっついている。
しかしどう見ても双子には思えないな。
二卵性双生児というやつだろうか?
とか考えたが、そういえば彼女たちの『設定』は、あの変態爺さんが決めたようなモノだったな。
まぁ、性格や容姿まで決めたかどうかは知らないけど、もしそこまで爺さんが関わってたとするとドン引きである。
俺の横には山田さん。
後ろからはエレスさんと渡辺さんがなにやら笑談しながらついてくる。
なにげにこの二人は仲がよくて思春期少年の目で見ると怪しい関係に思える。
考えすぎなんだろうけど。
ずいぶんと長い廊下の先にやっと一つの扉が見えてきた。
無駄に豪華なその扉をヨシュアさんが開けると、その扉に負けないくらい荘厳な作りの部屋が現れた。
といっても金ピカな悪趣味さではなく白を基調にした落ち着いた『THE 神殿』という雰囲気を
何より室内のはずなのに、大きな天窓のおかげでまるで外にいるかのように陽の光に満ち満ちていた。
「うわぁ」
その光景に思わず声が出てしまう。
「素敵だろ?」
ヨシュアさんは少し口元に笑みを携えながら言う。
「ええ、とても。むしろ今までで一番『神様の神殿』っぽい部屋ですね」
むしろ今まで神様の神殿という神聖な場所としてのイメージが感じられる場所が無かったのが問題なんじゃなかろうか。
「この部屋はね、お姉様と私が世界樹と契約したあとにお姉様がつくられましたのよ」
ヨシュアさんの腕にぶら下がりながらアイリィちゃんが自慢げに教えてくれる。
「ヨシュア様は土の女神ですからね。建築物はお手の物なのですよ」
山田さんがそう説明してくれた。
そういえば前に読んだ小説とかでも『土使い』って結構便利にいろんな建造物を作ってた事を思い出す。
周りを見ると土というより石造りに見えるが、そもそも『土使い』の使う『土』ってどれくらいの範囲まで『土』なのか。
土使いと言えばゴーレムだけど、ゴーレムって弱いのは土っぽいけど強そうなのになると石とか金属とかのイメージなんだよな。
まぁ、ヨシュアさんは一応『女神』なんだから、そんじょそこいらの『土使い』と同列に語るのもおかしいのかな?
「そしてこの部屋の一番奥の祭壇にまつられているのがこの世界の『世界樹』さ」
ヨシュアさんが手で指し示す方を見るとそこには大きめなタンスほどの祭壇があり、その上に俺の部屋にもあるあの世界樹育成ケース『そだてるん』が鎮座していた。
「ん? ミユと少し形状が違わない?」
そのケースをよく見ると細部が微妙にミユのケースと違っていたのだ。
一番わかりやすいのが竜気など世界樹に悪影響を及ぼす悪い力を吸収する装置である『猫耳』がどう見ても丸い。
そして排出器官である所の尻尾も丸い。
「ああ、それはですね。この世界を担当しているドワドワ研の担当者がモロンゴ好きだったんで形状がモロンゴ耳と尻尾になったんですよ」
「モロンゴ?」
また変な単語が現れた。
「えっとですね。モロンゴというのは私たちの世界にいる動物なのですが、田中さんにわかりやすく言うと『熊』です『ベアー』です」
なぜ言い直した。
「なるほど」
俺たちはそんな話をしながら祭壇に近づいていった。
近づくにつれなにか微妙に空気が重くなっていく。
なんなんだろうこの感じ。
俺のそんな雰囲気を察してか山田さんが声をかけてくる。
「大丈夫ですか田中さん?」
「いや、なんだかちょっと空気が重く感じて」
俺がその空気を払うかのように手を降ると後ろから渡辺さんが話しかけてきた。
「そりゃこの世界の魔素の中心地に近づいているんだからしかたない」
「魔素の中心?」
「山田から聞いてないかい? 世界樹ってのはその世界の魔素を生み出す存在だって」
たしかにそんなことをどこかで聞いた気がする。
そもそもミユも魔素を生み出してるとか言ってたし。
「魔素を生み出す存在に近づくと空気が重くなるんですか?」
俺は彼に疑問に思ったことを聞いてみた。
「それも山田から聞いてないのか」
渡辺さんは少し呆れた表情で山田さんを見る。
「今回に関しては時間も余裕も無かったんですよ」と山田さん。
「それにしても最悪命に関わる話だぞ?」
なんだか物騒なことを言い出した。
「それはそうなんですが。田中さんが現在持つあちらの世界の魔素量なら現状何も問題は起きないことは確認はしましたから。あとミユちゃんの加護もありますしね」
「まぁそれは確かにそうなんだが」
渡辺さんは微妙に納得いってないようだった。
「命に関わるって、この前言ってたミユの加護が無ければってやつ?」
俺は二人のやりとりにじれて口を挟んだ。
「それもなのですが詳しく説明するとなると少し時間が必要になるので、今は簡単に『別世界の世界樹に近づくと少し拒否反応が出る』と考えてください」
「簡単すぎるが、まぁ概ねそんな感じで今はかまわないか」
渡辺さんも同意する。
なんか怖いけどこの二人が大丈夫というなら今は大丈夫なのだろう。
そう思うことにして俺は少し重くなりつつある足を進めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
荘厳な台の上に置かれた世界樹ケースの中には、見かけではミユと全く変わらない『ミニ世界樹』が入っている。
この部屋全体にあふれる空気がその神々しさを際立たせてはいるが、かわいらしい熊耳がそれらをすべてぶち壊しているのは言うまでも無いだろう。
それでも普通にコンピュータ机の上にポンッと置かれたミユと比べれば桁違いに世界樹っぽいのではあるのだけど。
「彼女がこの世界の新たなる世界樹さ」
「ああ、いつ見ても美しいですわ」
双子姉妹はその台の左右に立って世界樹を見つめていた。
「見かけはミユと変わりませんね」
「そうですね。元々私たちの世界の世界樹から分けていただいた物ですから」
「本来は世界によって微妙に形が違うんだけどな。田中さんの世界の世界樹もこの世界樹も、もしかしたら成長すればするほどその世界に合った形に変わっていくのかもしれない」
俺たち男三人はそんな話をしつつ祭壇に近寄る。
また一層空気が重くなった気がする。
「それにしても成長度合いが低いのに魔素量がかなり多いですね」
山田さんが少し顔をしかめる。
「それなんだが、今回の事件でいろいろ調べてみてわかった事があってな。どうやらこの世界樹、成長の方向性が田中さんの世界の世界樹……ミユちゃんだっけ? それとは違うみたいだ」
「方向性が違うとはどういうことですか?」
「田中さんやスズキさんの世界樹は人が育てているような物だが、この世界の場合は仮にも『神』が育てている。この違いが大きいんだよ」
「スズキ様は勇者様ですがたしかに人の域を超えてはいませんからね」
「ボクたちが育てたせいで世界樹が悪い方向に育ってしまったわけじゃないよね?」
ヨシュアさんが不満げな声を出す。
「お姉様のやることにミスなどございませんわよ」
すかさず妹が姉を持ち上げるが今はそんなことはどうでも良い。
「別に悪くなったわけではありませんよ、お嬢さん。ただ成長の仕方が他の二つの世界樹と違っているために我々も神々の皆さんもすっかり勘違いしていたと言うことに気がついただけなんです」
渡辺さんが営業スマイルで答えるとさらに話を続ける。
「ここからは私たちユグドラシルカンパニーが現在持ち得る情報の中で、この世界のミニ世界樹と他の世界との違いから推測した話です。
もしかしたら間違っているかもしれないということを考慮していただいた上でお聞き願いますか?」
「はい」
「わかったわ」
「おねがいします」
コクコク。
なぜか山田さんまで頷いている。
「それでは我々の推測から現在のミニ世界樹の状態についてお話ししますね」
そして渡辺さんはこの世界の世界樹についてゆっくりと推論を述べだしたのであった。
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