第40話 いい娘を持ってお父さん幸せです。

「という訳で田中さんから見て吉田様はどんな人に見えますか?」

 突然部屋にやってきた山田さんが突飛なことを言い放った。

 もうすぐ冬だと言うのに熱にでもやられたのだろうか?

「ボクは人じゃなくて女神なんだけどな」

 その隣で吉田さんが長い髪をくるくる指でいじりながら所在なさげに立っている。

 最近この二人ばかりだな。

 高橋さんは完全にリストラだ。ご愁傷様です。

「どんな人ってどういうことさ?」

 純粋な疑問だ。

「実はですね、今朝北海道にいらっしゃる大家さんに部屋を借りたいと連絡させていただいたんですが」

 そういえば大家さんは今北海道の息子夫婦の家に行ってるんだっけか。

 コチラではまだ冬の始まりだが北海道はもう雪が降っているとネットの天気予報に書いてあった。

 まだ豪雪というわけではないからある意味雪の北海道を味わうにはいい時期なのかもしれないな。

 あっちは外は寒いけどお店や家の中はこっちより防寒対策されていて温かいらしいし。

「何か問題でも?」

 俺が問い返すと山田さんは少し困った顔をした。

「前回のスズキさんの時は私の付き添いで大家さんとスズキ様は顔をあわせてその場でOKをいただいたのですが今回は大家さんが吉田様を知らないのが問題でして」

 大家さんが出かけてから吉田さんがやって来たからそれはどうしようもない。

「じゃあ大家さんが帰ってくるまで高橋さんの部屋に居候するしかないよね」

 俺がそういうとあからさまに吉田さんが嫌そうな顔をした。

「嫌なの? 寝床が狭いゴミ屋敷だから?」

「ボクとしては寝床が狭いとかそういうのはいいんだけどね。高橋くんは何時も何時も夜中まで機械いじりしてるんだよね。だから眠れなくて……」

「じゃあ山田さんの部屋……は現状人が住める場所になっているんだろうか?」

「酷い言われようですね。普通に住めますよ」

「というわけで山田さんの部屋はいかがです? 山田さんは極度なロリコンだから手出しされないと思いますし」

「私はロリコンじゃありませんよ! 200歳以上じゃないと守備範囲外なだけです」

「じゃあボクはその守備範囲に入っちゃってるからダメだね。女神の貞操の危機じゃないか?」

「吉田様は年齢以外の部分が……」

「山田くん、ちょっと表で話し合おうじゃないか?」

 吉田さんはそう言うと山田さんの襟首を捕まえて外に出ていった。

 以外に怪力だな。彼女は怒らせないようにしよう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「という訳で田中さんから見て吉田様はどんな人に見えますか?」

 デジャヴュ?

 10分ほどして帰ってきた山田さんがさっきと同じことを聞いてきた。

「美人」

「おっ田中くんは見る目あるね」

「だけど貧乳で怪力」

「田中くんとも外でお話しなきゃいけないようだね」

 吉田さんがにじり寄ってきた所にミユが飛び出してきた。

「お父さんをいじめちゃだめなの」

 いい娘を持ってお父さん幸せです。

「むーっ」

「むーっ」

 吉田さんとミユが睨み合っている間に俺は山田さんに理由を尋ねる。

「で、大家さんになにか言われたの?」

「はい、自分が今吉田様という人物を見定められないので代わりに田中さんに見てもらって許可が出たら部屋を貸すとおっしゃられまして」

「何故俺が?」

 山田さんは一呼吸置いてからサラリと答える。

「田中さんが大家さんの親戚だからでしょうね」

「知ってたんだ……いつから?」

「一月ほど前ですかね。大家さんといろいろ話をしている時に少し」

「お父さん、大家さんってお父さんのおばあちゃんなの?」

 吉田さんとにらめっこしてたはずのミユがそんな事を聞いてくる。

 俺はなんと言って答えればいいのか少し悩んだ後に「ん? 違うよ」とだけ答えた。

「大家さんはですね、田中さんのおじいさんの妹さんなんですよ。言うなれば大叔母おおおば様でしょうか」

「ミユにはよくわかんないの」

 頭をひねるミユを押しのけて吉田さんがにじり寄ってきた。

 近い近い。胸がないから当たらないけど。

「とにかくボクが部屋を借りるためにはキミの許可が必要ってわけなんだよ」

「わかりましたから少し離れてくださいよ」

 俺は吉田さんを押しのける。

「俺の許可で本当にいいのかわからないけど許可するって大家さんには伝えておいてよ」

「田中さんがご連絡なさらないのですか?」

 山田さんはそう言いながら懐からガラケーを取り出す。

「俺はいいよ。それに吉田さんの事は山田さんの仕事でしょ? 人に自分の仕事を押し付けるのは良くないよ」

 取り出したガラケーをまた懐にしまいこんで山田さんは立ち上がる。

「わかりました、私が連絡を入れておきますね」

 どうやら外で電話をかけるらしい。

 そのまま俺は部屋を出ていく山田さんの背中を見送った。


 吉田さんも連れてってくれよ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 現在我が家ではミユvs吉田の戦闘が行われている。

 飛行ユニットを使い機動性を武器に襲いかかるミユを無い胸でかわし次の瞬間手を伸ばして捕まえようとする吉田。

「私の愛馬は凶暴なの!」

 何故か飛行ユニットから翼ではなく馬の顔と尻が左右に出ているがミユ、それはそういうものではないぞ。

 あといつのまに見たの?

「ボクの動きをすり抜けるとはさすが世界樹、あなどれない」

 さっきから汗だくでミユとじゃれ合っている吉田さん。

 汗のせいで少し服が透け……透け……。

「な~にエロい目してるですです?」

「!?」

 いつの間にやら高橋さんがこの部屋の騒ぎを聞きつけてかやって来ていた。

「え、え、エロい目なんてしてないしっ」

「この前嘘発見器を作ったですです。嘘つくとかなりの電気が流れるやつですですが持ってくるです?」

 俺はその場で土下座した。

「そんな冗談はさておきですです」

 高橋さんが持ってきた機械を取り出す。

「これは!? P○VR!?」

 高橋さんが取り出したのは最近話題のVRマシンにそっくりなマシンだった。

「ちがうですです。これは我がドワドワ研とユグドラシルカンパニーが現在製作中の簡易異世界転移装置ですです」

「簡易?」

「ですです。この装置を使えば田中さんを念願の異世界旅行へ連れて行くことができるですです」

「まじか!」

「まだこれから調整が必要ですですが期待して待ってるがいい! ですです」

 おれが期待に目を輝かせている横ではミユの機動力にヘロヘロになった吉田さんが座り込んで勝敗が決まっていた。

 透け具合もいい感じに決まっていたが。


 がちゃっ。


 玄関を見ると山田さんが電話を終えたのか帰ってきた。

「部屋を借りる許可がもらえましたよ」

 山田さんはイケメンスマイルだ。

「それでは早速101号室をとりあえず眠れるレベルまで掃除に行きましょう」

 俺達は山田さんと一緒に101号室へ向かうことに成った。

 掃除するといってもスズキさんが当時完璧に片付けて行ったわけで、実際しばらく使ってない間に積もったホコリをさっと取るだけの簡単なお仕事だ。

 ベッドや家具は元から備え付けられているのであとは布団だがこれも押入れに一セット入っている。

 本当は干したほうがいいんだろうけどもう日が暮れた後だ。

「今日はそのまま寝て布団は明日干しましょう」

「ボクはそれでかまわないよ。というかむしろ干すとかめんどくさいし」

 女神様は家事嫌いなんだろうか?

 まぁ神様だし、家事全般は信者にむしろやってもらってたんだろうから仕方ないか。

「あと、必要なものは明日買い出しに行きましょう。経費で落としてみせます」

 山田さんがそう気合を入れる。

 経費で落ちるものなのか?

「鈴木さんの時も経費で落としたの?」

 俺は気になったので聞いてみる。

「ええもちろん。スズキ様の場合は我が社がお呼びしたようなものでしたし」

 そう言いながら山田さんは吉田さんをジト目で見る。

「吉田様の場合は勝手にこちらへ来たので経費が認められるかどうかは交渉次第だと思いますが」

「ボクのためにがんばれ山田くん!」

 吉田さんがサムズアップする。

 この人、全然反省していない。


 色んな意味でがんばれ山田さん。

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