第33話 思っていたのとちがいます。
「なるほど。ミユちゃんがレベルアップしたですですか。それで調子に乗ってあんなポーズを」
高橋さんは俺達から事の経緯を聞いてあの惨状に納得したようだった。
「まさかあんな立体映像写真とは思わなかったんだよ」
「立体じゃなくても十分恥ずかしいですです」
うぐっ。
高橋さんに正論で返されるとか屈辱。
「まぁ、私達の世界でも幻像写真はあまり使わないですですから」
「幻像写真? ああ、あの写真はそういう呼び名なのな」
「ですです。大体の人はこの世界で言う『普通の写真』と同じようなものを撮るですです」
高橋さんはそう言いながらふところから1枚の写真を取りだす。
「これはドワドワ研究所の打ち上げ会の時の写真ですです」
その写真にはどこかの宴会場だろう場所でドワドワ研究所の所員達十数人が写っていた。
「ん?」
その所員達の中に一人だけ背が高い人が混ざって、今にも死にそうな顔で写っているのを俺は発見した。
してしまった。
「山田さん?」
「はい、なんですか?」
ミユと二人で俺の黒歴史ホログラフを見ていた山田さんが俺の声を聞いて寄ってきた。
そしてその写真を見たとたんに山田さんの顔が青ざめる。
「そ、それは……」
「あの打ち上げの時の写真ですです」
ああ、これが山田さんにトラウマを刻みつけた伝説の打ち上げ会か。
しかしドワドワ研究所の所員ってみんな高橋さんみたいに小柄な人たちばかりだからその中で一人長身の山田さんは目立つなぁ。
「あの時は楽しかったですですぅ」
「私は楽しくなかったですよ」
青ざめた顔でそう言うと山田さんは逃げるようにミユの方へ戻っていった。
当時のことを思い出しているのか高橋さんが過去の思い出に埋没しようとしていたので俺は質問することにした。
「幻像写真はあまり使われないって言ってたけど、なぜ?」
「そうですですね。簡単に言えば使える人が少ないんですですよ。消費マジックパワーもそれなりに大きいですし、特に若い人だと山田さんのように世界樹から力を引き出せる人でもないと使えないからですです」
なるほど。
前に山田さんが自分は世界樹の力が使えるから契約者でもないのにミニ世界樹の
つまりこの幻像写真はユグドラシルカンパニーでもある程度の権限を持った人じゃないと使えない技術って事か。
たしかに最近は日本でもホログラフィック技術を使った商品が少し出回り始めたけれど、この幻像写真やミユの幻像モードほど完成度の高いものは出ていないしな。
「そんなことより飛行ユニットですです」
高橋さんが背負っていた荷物を床に置くと中から大きめのケースを取り出した。
どうやらこの中に『飛行ユニット』とやらが入っているらしい。
「完成したんだ?」
「まだまだ改良の余地もあるですですが現状出来ることはやり尽くしたですですよ」
「たのしみなの」
ミユが寄ってきてキラキラした目でそのケースを見つめている。
「飛行ユニットのデザインはこの前決めたように『羽』を付けた形にしてくれてますか?」
山田さんが高橋さんに尋ねる。
なぜこの人はそこまで羽にこだわるのか。まぁ俺もそれに乗ったわけだけども。
「大丈夫ですです。正直かなり面倒だったですですがなんとか実装したですです」
実用性第一なドワドワ研究所員としては飾り物の羽は邪魔でしか無いのだろうな。
「じゃあ今からミユちゃんの素体に取り付ける作業を行うですです。ミユちゃん、とりあえず服を全部脱いでくださいですです」
「はーいなの」
ミユはそう答えると何時も着ている佐藤さんから貰ったお気に入りの服を脱ぎだした。
「わっ!? いきなり脱ぎだすなよミユ!」
俺は慌てて山田さんの腕をつかむと一緒に部屋の外に出たのだった。
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しばらく山田さんと二人、外で時間を潰していると部屋の中から高橋さんの「装着完了ですです」という声が聞こえたので部屋に戻る。
机の上ではなぜかミユが大きなバスローブのような物を着て立っていた。
「ふふん、これからお披露目会ですです。ささ、二人共そこに座ってくださいですです」
俺達は高橋さんに勧められるがまま机の上に立つミユの前の床に座った。
「それでは、異世界初のミニ世界樹素体専用飛行ユニットのお披露目ですです!!」
高橋さんはそう言うとバスローブから出ている紐を一気に引っ張った。
フワッとバスローブがミユの足元に降りその体が現れると、そこには以前見せてもらったランドセルよりも少し小型でさらに丸みを帯びたリュックのようなものを背負ったミユが立っていた。
「おお、かわいい」
たしかに前回見た、すこし無骨なランドセルより随分かわいらしい見た目になっている。
でも……。
「高橋さん」
山田さんがジト目で高橋さんを見て言う。
「羽が見当たらないんですが?」
そう、その飛行ユニットにはあれだけ山田さんが切望した羽がみあたらなかったのだ。
「ふふん、本番はまだまだこれからですです」
高橋さんは不敵に笑い「ミユちゃん、お願いするですです」とミユに何かを指示した。
「はいなの!」
元気いいミユの返事と同時にミユが背負った飛行ユニットから「ぶわさっ!!」と真っ白な羽……いや、翼が広がった。
「これは……」
「カッコイイでしょ? 山田さん達の要望を受けた後、ミユちゃんと相談して作った通称『ミユ・ウイング』ですです!」
「なのなの!」
相変わらずネーミングセンスは無いようだ。
胸を張る高橋さんの真似をしてか、こちらも胸を反らせたミユの背中から広がる一対の翼。
どうやら幻像機能を使って作り出されたらしく、その翼は少し光りながらゆっくり羽ばたいている。
どうしよう、我が娘が神々しい。
「こんなの思っていたのとちがいます!」
我が娘を天使を見るような目で見つめていた俺の隣で山田さんが叫んだ。
山田さんは直後俺の部屋を一度出ていって自分の部屋に戻り何かを持ってもう一度やって来た。
それは数冊の有名アニメ雑誌であった。
その内一冊を開いて俺たちに見せる山田さん。
「私はこういう物をお願いしたんですよ」
そこには有名アニメキャラが丸っこい羽が付いたリュックを背負ったかわいいイラストが載っていた。
「他にもこんなのとか」
山田さんはまた別の雑誌を開いて同じようにアニメキャラが背負った羽根つきリュックのイラストを指し示す。
「田中さんもそう思ってましたよね?」
すがるような目で見られたが俺は「いや、別に。普通飛行ユニットの羽といえばこっちでしょ?」とミユを指差した。
山田さんが何故か絶望したような顔で俺を見る。やめろ、そんな目で見られても俺の心は奪えない。
「しかたないですですねぇ」
高橋さんが何故かえらそうな態度で言う。
「ミユちゃん、翼チェンジですです」
「はいなの」
ミユが応えると先程まで大きく広げられていた翼は一瞬で消え去り、山田さんが先程から切望していたかわいらしくまるっこいアクセサリーの様な羽が飛行ユニットから生えていた。
「と、このように幻像装置によって作られた翼は自由自在に形を変えることができるですです。エネルギー消費を極限まで抑えた超低出力でこれを作るのは苦労したですです」
天才高橋の面目躍如ということか。
山田さんはその可愛らしい羽を生やしたミユを何故か涙目で見ていた。
あ、拝みだした。
この人の性癖やっぱりヤバイんじゃなかろうか。
ミユにあとで「山田さんにはお菓子もらっても付いていったらいけませんよ」といい聞かせておこう。
あともしもの時のために高橋さんからあの宴会写真のコピーを貰っておこう。あれは山田さんには効果てきめんだし。
「とにかくこれで設置は完了ですです。あとはミユちゃんに飛行テストをしてもらいながらの微調整で完成ですですね」
高橋さんはそう言うと鞄の中から何やら箱を2つ取り出した。
「さすがに疲れたから微調整は後にして私が買ってきたエルフの里名物を食べながら一旦休憩するですですよ。山田さん、お茶の用意よろしくですです」
ミユ神様を崇めていた山田さんはその声に我に返ったらしく「お茶用意しますね」とキッチンへ向かっていった。
さて、毎回嫌な予感しかしないエルフの里名物シリーズだが今回はなんと高橋さんは二個も買ってきているらしい。
この食いしん坊さんめ。
「どっちから食べようかな? ですです」
高橋さん、それは俺へのお土産じゃないんですかね?
「君に決めた! ですです」
高橋さんはそう言うと片方の赤い包装紙で包まれたお菓子を持ち上げて机の上に置き包装紙を開け始めた。
「高橋さん、これ何?」
「これはエルフの里名物『銘菓 不死鳥』っていう老舗のおかしですです」
また鳥か。
「ちなみに『火を吐くくらい美味しい』がキャッチコピーですです」
おれが嫌な予感にジト目で見ていると高橋さんがそんなことを言いながら包装紙を捨てて箱を開けた。
その箱の中には……。
「鳩サ◯レーじゃねぇか!!」
そこには鎌倉名物の鳩の形をしたクッキーにしか見えないものが並んでいた。
エルフの里の名物にまともなもの無し。そんな言葉が俺の心に深く刻み込まれたのは言うまでもないだろう。
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