第25話 お出かけは計画的にです。

 あれから毎日『次の休日のお出かけ』のための予行演習を行っていた。

 あの日の翌日、佐藤さんがミユ用の服を作ってきてくれるという嬉しいハプニングもあった。

 素体モードの時のミユは下着姿なのでミユが『憑依』を止めると思春期高校生はあたふたとしてしまっていた。

 適当な布を切ってバスタオルのように巻いてごまかしていたけど流石にみすぼらしいなと思っていた所に嬉しいプレゼントだった。

 服飾デザイナーを目指しているだけあってか佐藤さんの作ってくれた服はミユの可愛らしさを倍増させていた。

 その日はミユも上機嫌で帰ってきてから大はしゃぎしていた。

 俺はそんなミユを見て正直「もうこれで遠出しなくても良いんじゃないかな?」と、つい口に出してしまった。

 上機嫌だったミユはそれを聞いて一気に不機嫌になり、そのまま次の日まで口を利いてくれなかった。

 スズキさんも居ないのに紅葉モードで拒絶するミユにひたすら謝ったが許してもらえず翌朝山田さんに相談するも何故か変に優しい目つきで「がんばってくださいね」と言うだけで助けてくれない。


 手詰まり状態になった俺はミユの事を相談できる唯一の女の子である委員長に電話してアドバイスを貰う事にした。

 あ、高橋さんは『女の子』じゃないし、この手の相談相手になるとは思えないので除外だ。


 委員長は俺が事情を説明するとしばらく考えた後一つアドバイスをくれた。

 俺は委員長のアドバイス通りコンビニへ走ってケーキを買い、そのケーキを吸収口に置いてやった。

 しばらくすると徐々にケーキが減って行き、全部消えると同時にミユが「許してあげるの」と、天の岩戸から出てきてくれたのだった。


 委員長は「へそを曲げた小さな娘の機嫌をとるにはそれが一番よ!」とやけに力説していたが自分自身そうやって父親に籠絡された経験でも有るのだろうか?

 兎にも角にも助かった。

 委員長には今度お礼として俺「が」ケーキを奢る権利をやろう。

 べ、べつにそれを言い訳に委員長とデートしたいって訳じゃないんだからね! か、勘違いしないでよね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 そんなこんなで遂にやって来てしまったお出かけ当日である。

 朝からテンションの高いミユを肩に乗せ、猫耳付きのミニ世界樹育成ケースをリュックに詰め込みお出かけの準備は万端だ。


 いや、一つ忘れていた。

 昨日高橋さんから渡された物があったのだ。

 俺は一度背負ったリュックを一旦おろしてリュックの後ろから飛び出しているコンセントを掴むとそこに白いモフモフのカバーを取り付けた。

 高橋さんいわく、コンセントに刺さない状態で外に出る時に使うアタッチメントらしい。

 コレを付けることによって、本来ならコンセントからアースされる竜気等の世界樹に悪影響を及ぼす波動を空気中に拡散することが可能なのだそうな。

 ただし狭い部屋や強力すぎる波動を受けた場合はアタッチメントだけでは拡散する力が足りないので必ずコンセントに刺すようにとの事。


 とにかくこれで猫耳猫しっぽのリュックを背負う男子高校生の誕生である。

 その状態だけでもヤバイのに肩にミユが乗っているわけだから俺が人の多い場所に行きたがらないのも仕方がないだろう。

 でもそんなことを言えばまたミユが怒って引きこもってしまう。

 今更後には引けない。

 俺は思い切って部屋を出ると、既に準備万端サラリーマン姿の山田さんが部屋の前で待っていた。

 高橋さんは今日はドワドワ研究所に出向かなくてはならない仕事が入ったとの事で欠席である。


 出かける先は既に話し合って決めてある。

 電車で3駅先の大型ショッピングモール「アエリオン」だ。

 俺自身は学校の同級生に合うことがない位遠くへのお出かけを提案したのだがミユがテレビのCMで見たアエリオンで今やっている『世界の植物展』に行きたいと言ったので泣く泣く行く先を決めたのだ。

 もしも同級生が居た時のために百均で買ったマスクとサングラスの変装セットも一応用意した。

 先に見つけられたらどうしようもないが気休めにはなる。


「はぁ、この格好で電車かぁ」

 俺はため息をつく。

「可愛らしいですよ」

「男が男に可愛いって言われても嬉しくもなんともないんだが」

 おれは能天気な山田さんを少し睨む。

「まぁ冗談はそれくらいにしてミユさん」

「はいなの」

 山田さんが俺の方のミユに目線を合わせるように少しかがんだ。

 身長差が屈辱だ。

「先日編み出したあの技をそろそろ使ってあげてください」

 あの技?

 山田さんがおかしな事を言い始めたので俺はミユを見る。

「お父さんをいじめるのはこれくらいにするの」

 何、俺娘にいじめられてたの?

 お父さんちょっとショック。

「まぁまぁ田中さん。ミユさんが貴方の為に一生懸命考えて作り出した技を見てあげてください」

 田中さんは何時ものイケメンスマイルでミユの方を促す。

「じゃあ行くの!」

 ミユはそう言うと一瞬七色に光った。

 ミユのレインボーモードだ。でもこれは今までも見たことが有る。

 俺は腑に落ちないままミユを見ていた、すると……。

「ミ、ミユが消えた!!」

 今まで俺の肩に座っていたはずのミユの姿が消えたのである。

 しかし肩にはミユが座っている感触が今でも有る。

「まさか……光学迷彩?」

「はいなの。この前アニメで見て出来るかもと思って練習したの」

「ここ数日ミユさんは田中さんが眠った後私の部屋に来てこのスキルの練習をしてたんですよ。田中さんを本番で驚かせるんだって言って」

 そう言ってウインクする。

 だからそれやめろって。

「ミユさんは幻像を出すスキルと虹色を操るスキルが有りますので、その2つを合わせればなんとかなるんじゃないかなとおもいましてね」

「これでミユ、誰か知らない人が来る度に隠れなくてもよくなるの」

 そうだ、予行演習中にミユの事を知らない人と会う度に俺はミユを慌てて隠すという事を繰り返していた。

 それを気に病んでたのか。

「ごめんなミユ。大事な家族だとか言ってお前を人の目から隠すとか矛盾してるよな」

「違うの。ミユはただお父さんと一緒にお出かけしたかっただけなの」

「そうですよ田中さん。ミユちゃんは今の自分が外に出れば奇異の目で見られる事もちゃんと解っててそれでこの技を編み出したのであって、それは田中さんのせいじゃないんですよ」

 山田さんはそう言うと一度手をパンッと叩いて話を切り替えた。


「とにかくこれで気兼ねなく外の世界へミユさんを連れていけるようになったわけですから早く行きましょう。電車に間に合いませんよ」

「乗り過ごしたら次の電車でもいいじゃん」

「そういうわけには行きません」

 山田さんはそう言うやいなや俺の目の前にいつもの手帳を開いて突き出してきた。

 そこにはびっしりと今日の予定が書かれていた。

「なにこれ引くわ」

「お出かけは計画的にですよ!」

「ミユも早くお出かけしたいの!」

 ミユにまで言われたら仕方がない。

 俺はすこし苦笑いしてから山田さんと一緒に急いで駅へ走り出した。


 目の前には山田さん、そして肩に光学迷彩で姿を隠したミユの重さを感じながら。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 山田さんの指定した時間の電車にのるため大慌てで駅のホームに駆け込んだ俺達を待っていたのは……『休日ダイヤ』だった。

 今ホームに駆け上がった俺達が乗るはずだった電車が目の前を走り去ってく。


「山田さん、なんで平日の時刻表で予定たててんですか!」

 俺のその問いに山田さんは答えずメモ帳を開いて今日の予定を一生懸命修正していたのだった。

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