第12話 私に娘なんて居ないです。
「うぉっ!まぶしっ!」
「目がぁぁ!目がぁぁぁ!ですです」
「かゆ……うま……」
目の前でフラッシュが焚かれたような光に三人共驚愕の声を出す。
山田さんだけ一人おかしなリアクションだったがそんな事を気にしていられないくらい眩しい光だった。
とにかくレベルアップに合わせて何かが起こったことは確かだ。
徐々に光に侵された視界がもとに戻って行き視力が回復していく。
闇の世界も光の世界も色がないのは一緒だななどと中二的な事を考えている内に世界に……色が戻った。
さっきまでと変わらない部屋。
必死に両目を抑えて転げ回っている高橋さんと何故か俺の方を見て呆然としている山田さんが目に映る。
高橋さんはドワーフ設定だから光に弱いとか?
ドワーフ=光に弱いという設定の話はあんまり見たことはないけど。
それより山田さんだ。
いつもの揺るぎないイケメンスマイルじゃなく呆然と俺の方を見ている。
なんだろう?俺急ににイケメンにでもなって惚れちゃった?
でも残念、俺はノンケです。
「た、田中さん」
山田さんが俺の方を指差す。
「山田さん。親に言われませんでしたか? 人に向けて指差しちゃいけませんって……」
「違います、後ろです」
「ハハッ、そんなベタなネタにはだまされないよ」
と言いつつも後ろを振り返る小市民な俺だったが次の瞬間固まった。
そこにはキラキラ輝く少女が完全武装で立っていた。
完全武装。そう、園児服+園児帽+園児ランドセルのフルアーマーだ。
年齢的には小学校低学年くらいはあるだろうに何故園児服なのか。
俺が色々なことにパニクっていると彼女は言った。
「お父さんの趣味に合わせてみたの」
俺がそっと山田さんの方を見て「山田さん……娘さん相手になんて事を……」と言うと山田さんは全力でそれを否定してきた。
「ち、違いますよ。私に娘なんて居ないです。彼女は貴方の娘さんでしょう?」
ははっ。何を言っているのかな?
彼女いない歴=年齢のこの俺に対してイケメンさんが猛烈な嫌味をかましてきた。
そんな俺に山田さん(イケメン)はさらなる爆弾を落とす。
「彼女はミニ世界樹『ミユ』ちゃんですから。つまりその園児服は田中さんの趣味で彼女はそれに合わせてくれたという事で、なんて親思いの良い娘さんじゃないですか」
「田中はロリコンですです。しかも上級者ですです。よるなさわるなセクハラで訴えるですです」
目の痛みから復活した高橋さんが尻馬に乗る。
俺はゆっくりと振り返り、山田さん曰く『ミユ』らしい少女に向かって叫んだ。
「俺にそんな趣味はねぇぇぇ!!!」
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現状を整理しよう。
ミユ曰く、今回のレベルアップで得た新しいスキルとして自分の姿を幻像として映し出すことが出来るようになったという事で早速幻像を作り出してみたそうだ。
幻像、つまりホログラフィックという事だろうか。科学の進歩バンザイ。
その際、俺が普段から見ていた……いや、たまたま見ていたネットの画像に幼稚園の写真があってそれを参考にして服装を作り出したらしい。
正直に言おう。俺は園児などどうでもいい。目当ては保母さんである。
俺の性癖についてコレ以上話す気はない。察しろ。
今のミユは普通に小学生が着るような服に着替えている。
ホログラフィックなので一瞬で切り替わるので着替えシーンなど無い。残念だったな!
そしてレベルアップに合わせて契約者以外への意思疎通が可能になった。
山田さんは微妙に涙ぐんでいた。
イケメンなのに鼻水がキラリと輝いていたのを俺は見逃さなかった。見たくもなかったけれど。
そしてお待ちかねの今回の呪文だ。
『冷淡なる息吹』
山田さんに聞くと「氷系の魔法ですね」との事。
俺は期待いっぱい胸いっぱいで呪文を唱えてみることにした。
ちなみにミユも高橋さんも胸は残念なレベルなので実物はいっぱいではない。
「我らを凍てつく潮流にて守り給え!」
次の瞬間、俺の部屋の中が爽やかな風と共に涼しくなった。
予想通りこれはクーラー機能だ。
おれは内心ガッツポーズをした。
「お父さん、ミユの姿を見せた事よりも呪文のほうが嬉しそうなの……」
俺はハッとしてミユに弁明をする。
「いや違うんだミユ。この部屋はエアコンとか付いてないだろ? だから今まで暑い日は大変だったんだよ。もう夏も終わると言っても残暑で気温が高い日もあるだろ? その度に俺はぐったりしてたり部屋からミユを置いて逃げ出して涼みに行ったりしてたわけだ」
近所の図書館や、少し遠いけど映画館などの施設が充実している大型ショッピングモール・アエオンあたりが避難場所である。
「それがこのクーラー機能さえあれば部屋から逃げ出す必要もない。つまり学校に行っている間以外はミユとずっと一緒に居ることが出来るようになるんだよ?」
我ながらAI相手に何を言ってるんだかと思わなくもないが幻像で人のように見え振る舞うミユを目の前にするとそんな疑問は吹っ飛んだ。
ミユはそんな俺の言葉を聞いて不満そうな顔から一転して笑顔になった。
かわいい。さすが俺の娘。
「いやぁ、親バカですですねぇ」
「そうですね」
外野がうるさい。
「ところで田中さん。今回もプラスαが付いてますね」
「え? そうなの? クーラーが嬉しすぎてよく見てなかった」
どれどれ?と説明書の続きを読んで見る。
『+α 青色1号 体が一定時間青くなる』
本気でガ◯ラス人ごっこ以外に使いみちが考えられない能力が発言していた。
「お父さん、試してみる?」
「お断りします」
この能力(?)を使う日は来るのだろうか。
せっかく青い鳥で生まれた力だったら「幸せを呼ぶ」とかにしてくれればいいのに。
「じゃあ私に使ってみてくださいですですぅ!」
高橋さんが割り込んできた。
だが面白そうなのでミユに許可を出すことにする。
「ミユ、せっかくだから高橋さんを青くしてやってくれ」
「はいです」
ミユはそう返事をすると高橋さんに指を向けて何やらつぶやいた。
つぶやきが終わるとミユの伸ばした指から高橋さんへ一直線に青い光が飛んだ。
そう思った次の瞬間、高橋さんはブルー高橋さんにバージョンアップが完了していた。
足元からゆっくり変わっていくのかと思ってたのに一瞬だったので少し驚いた。
あとブルー高橋さんが思いの外気持ち悪かった。
「いやぁ、流石にその色は似合いませんね」
山田さんがオブラートに包んだ批評をする。
「ガチでキモイだけだが?」
俺はそう言うと机の引き出し方手鏡を出してブルー高橋さんに渡す。
自分でそのキモさを知って後悔しろと少しおもったのだが鏡を見た高橋さんの反応は全く違っていた。
「すご~い! 本当に青くなってる! 幻術じゃないなら細胞レベルから変化してるですです?」
飛び上がらんばかりに喜びだした。
そうだこいつは根っからの研究者だった。
その後、高橋さんは自分の青くなった肌の研究をすると部屋を飛び出していったのだが山田さんはそのまま居座っている。
「山田さんは帰らないんですか?」
「今日は会社に許可を貰ってますので」
俺は許可してないんだが?
「しかしミユさんの成長は凄いですね。これは次回の総会はまた盛り上がりますね」
そう言うとまた手帳にメモを取りだす。
クーラーの呪文(わかりやすいのでそう呼ぶ事にする)のお陰で涼しくなった部屋で俺たち3人(?)はまったりと夏の終わりの午後を過ごすのであった。
なお、クーラーの呪文の効果時間は一時間ほどだったため、後にその温度差で苦しむことになるのだが……。
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