其の九十二 超える力
眼下の光景を、沖田は口元に笑みを浮かべながら見下ろしていた。
最強の聖機兵が三機、敵の機兵を取り囲んでいる。それを見て沖田は、己が新選組に居た頃の事を思い出していた。
新選組は敵と相対する時に集団戦法をとることが多かった。
一人の敵に対しても、一対一ではなく必ず二人以上でかかること。卑怯な戦法にも思えるが、確実に勝つための手段であった。
とはいえ、沖田はその戦法があまり好きではなかった。
武士道精神に反するとかそういった理由ではなく、ただ単純に戦い難かったからである。
手練れの組長あたりならまだしも、一般の隊士では沖田の剣の腕についてこれず、連携を取るどころか、かえって邪魔だったのだ。
沖田は溜息を吐くと、リーンクラフトへと振り返った。
「なんだかややこしい話になっているようだけど。あんた、賊なのかい?」
楽しげに尋ねると、リーンクラフトは忌々しげに答えた。
「そう思うのなら、私の首をあの男に献上すれば良いだろう」
「冗談だよ。レオンハルトも言ってただろう。忌々しいと言いながら、己が蟲を引き連れてやってくるなんて支離滅裂じゃあないか」
そう返して、沖田はまた眼下を見下ろした。
「なあに、レオンハルトの旦那がすぐに片を付けるよ」
しかし、リーンクラフトから返ってきた答えは予想外の返答であった。
「いや、恐らくあの三機では勝てない……」
実は沖田も薄々感じてはいたものだった。
あの紅蓮の機兵から発せられる強力な魔力を感じ取ることはできないが、得体の知れない強大な力を感じていた。
これは、数多の死線を潜り抜けてきた沖田だから感じることのできた直感であった。
「へぇ、なんで? 聖機兵ってやつは最強なんだろう?」
「ああ、紛れもなく最強の機体だった」
「だった?」
沖田は怪訝顔で返す。
「レオンハルトの旦那も、サーヴァインの旦那も相当な手練れだぜ。あっちの蛇の目の男だって手合せしたことないが、かなりのもんだ」
「最早、操縦者の技能など彼我の戦力差にはなんの決定打にもならない」
「だから、どうしてなんだよ?」
勿体ぶるリーンクラフトに苛立ちながら答えを待つ。
リーンクラフトは酷く顔色が悪く顔面蒼白で、呼吸も苦しそうにし唇が青紫色になっていた。
「おい、あんた……」
「いい、構うな。それよりも、私を屋敷まで連れて行け」
「どうするってんだい?」
「説明をしている暇はない、一刻を争うのだ」
そう言うとリーンクラフトは踵を返し、フラフラとおぼつかない足取りで歩き始めた。
沖田はその足元を見て気が付く。
ポツポツと地面に落ちる血痕。リーンクフラフトは相当の深手を負っていることは明らかであった。恐らくはもう……。
沖田は腕組みをするとしばし考え込み、やれやれといった表情をして、二度頭を横に振るとリーンクラフトに駆け寄りおぶさるように言った。
「道すがら説明してもらうぜ」
「すまない、おまえ名はなんと言ったかな?」
「沖田だよ、沖田総司。ちゃんと覚えとけよ」
「ソージか……今度は覚えたよ」
リーンクラフトが応えるのと同時に沖田は駆け出すのであった。
今から数百年前、スティマータがこの世に溢れるよりも更に昔のこと。
戦乱の世が続く中、武力ではない力によって台頭してきた部族があった。
その者達が操るのは、火、風、水、土、雷、光、闇、大自然に存在するエレメントを具現化し攻撃へと転ずる能力。
魔法であった。
剣や槍などの武器を手に戦う人間達は、魔法の前に成す術もないように見えた。
しかし、魔法とて万能ではなかった。
魔法を操る者とて他の人間と変わりない生身の人間である。
不眠不休で戦線に立ち、戦い続けることはできない。
ましてや、魔力というものは人間の生命力そのもの。それは無限に続くものではなかった。
更に魔法を操れる者は少数部族であり、戦局を変えるような圧倒的な存在には成り得なかったのだ。
しかし魔法の力が絶大であることは確かであった。
ある時、とある王族が魔法とは別の力を発見する。
それは科学技術であった。
その技術は兵器開発へと転用され、多くの機械兵器が生み出されていった。
そして、兵器と魔法が融合する。
そうして生み出されたのが、機兵であった。
魔法科学を兵器と融合させることにより、鉄の戦車が人型の戦車へと変貌を遂げたのである。
それは、戦争自体にも変革をもたらした。
人間達は生身の身体で戦うことなく、機兵へ登場し戦うようになったのである。
「最盛期の時には、世界には1万を超える機兵が存在していたと言われている」
そう言うリーンクラフトの言葉には、どこか怒りが籠っているように沖田には感じられた。
「機兵ができたあらましはわかったよ。それで、レオンハルトの旦那達が勝てない理由はいつになったらわかるのかな?」
「小僧が、折角解り易く話してやっているのに」
リーンクラフトは舌打ちすると、苦しそうにしている呼吸を整えて再び説明を始めた。
「簡単に言ってやろう。敵は、我らが300年前に成し得なかった技術を以って、最強の聖機兵を更に超える機兵を生み出したのだ」
続く
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