其の五十七 死闘
城壁から見下ろすエッケザックス対スティマータの戦いを、皆が足を止め息を飲み見つめている。
最強の聖機兵が手も足も出ないまま嬲られていく様に、誰もが絶望の表情を浮かべるのだが、キャロルティナがそれを一喝した。
「足を止めるなっ!」
「しかしキャロルティナ様、あれではもう……」
騎士の一人がそう零した。
それでもキャロルティナは毅然とした態度でエッケザックスを見つめると答える。
「私はあの男を信頼していると言ったんだ。絶対に裏切らないと言ったんだ。ジューロータはそれに応えてくれた。だから、絶対にジューロータは負けないっ! 負けるはずがないんだっ!」
そう言うと再び走り出す。前を見て後ろは振り返らない。今、自分にできることを成す為に、その為だけにキャロルティナは走った。
城壁の上を走り、城門の上まで来ると数人の男が下に降り、何人かは上に残る。そして放棄した機兵がそこへ合流した。。
既に魔力切れ、或いは故障している可能性もあったが、無事動いてくれたことに皆が胸を撫で下ろした。
「よーしっ! 皆、お姫様の説明は理解したなあっ!」
「いい加減そのお姫様はやめてくれないかな……」
髭のおっさんが大声で言うと、男達は声を揃えて返事をした。そして城門の外側にある深い堀、そこに掛かる橋を下ろすと吊ってある鎖を取り外しにかかった。
人の手だけでは数時間は掛かるであろう作業であったが、機兵の力を借りながらなので数分で取り外し終えると、十数メートルはある鎖ニ本を縒り合わせ始めた。
「万力でしっかり挟んでおけよっ! 外れたら死ぬかもしれねえぞっ!」
「馬鹿やろうっ! そこを掴むんじゃねえ、挟まれたら腕がちぎれるぞっ!」
そこら中で男共の怒声が響く、それを女騎士達は茫然としながら見つめていた。
「なぜあんな風に罵り合いながらも、息の合った作業ができるのだ?」
カタリナの呆れ果てた言葉にキャロルティナは笑みを浮かべながら答えた。
「あれが男って生き物なのだ。野蛮でガサツで力強く、そして……優しくて頼りになる。そういうものなのだ」
男達が「せーのっ!」と声をあげ、鉄の棒を捩じり上げると二本の鎖が縒り合わさる。更にそこへ機兵が慎重に力を入れることによって頑丈な鎖のロープが出来上がった。
その先に即興で鉄の鉤爪を取り付け終えると、キャロルティナが機兵のパイロットへ指示を出した。
「ファティアさん! それをジューロータに、スティマータを地上に引き摺り落としてやれって伝えて!」
『了解しましたキャロルティナ様。聖機兵には及ばずともその任務、このファティアが必ずや遂行してみせます』
そういうと、ファティアの駆る機兵は鎖を掴み、ガラガラとそれを引き摺りながら駆け出すのであった。
「他の者達は説明した通り、自分の持ち場へ付け! これが最後の戦いだ、必ずやあのスティマータに一矢報いてやるぞっ!」
カタリナが叫ぶと、女騎士達は鬨を上げて駆け出すのであった。
******
エッケザックスの動力に解放された魔力が集束されると機体が淡く輝き始めた。
どす黒いマグマのような。ぼんやりと輝く赤黒い光を纏うと、エッケザックスは立ち上がり剣を構える。
関節部がギシギシと軋み悲鳴を上げ、熱排気口からは大量の蒸気を噴出する。内に漲る力を抑えこむように、震える機体を十郎太は制御しようと歯を食いしばった。
エッケザックスの体内に宿る力、それを十郎太も己の身に感じているのだ。荒れ狂う嵐のような力が全身を駆け巡っているのがわかる。そしてこの力は長くは持たないであろうと言うことも。
「どうなるかわからねえが、これで止めをさせなければ終わりだな……」
一度大きく深呼吸をし、覚悟を決めると十郎太は声を上げた。
「行くぞっ!」
一歩踏み出しただけで、まるで瞬間移動したかのようにスティマータとの距離が縮まる。一気に敵の間合いに入ると、十郎太はスティマータの肢を2~3本切り落とした。
高速移動するエッケザックスの動きを捉えることが出来ずに、スティマータは長い身体を丸めトグロ巻になるのだが、十郎太はかまわずに身体を切り刻み続けた。
その度にスティマータは悲鳴を上げて、斬られた方へと頭を向けるのだが、その時には既にエッケザックスは視界の外へと回り込み別の部分に斬りかかっていた。
肉を削ぎ落されていく痛みに、スティマータは堪らず上空へと逃げ出す。
「ちいっ! また空へ逃げるのかっ!」
その時、城門の方から機兵がなにやらガラガラと引き摺り駆け寄って来たことに十郎太は気が付いた。
『ジューロータ様これを!』
『なんだ? てめえなにもんだっ!?』
『キャロルティナ様からの伝言です。こいつで、奴を地上に引き摺り下ろしてやれと』
鎖を受け取った十郎太は茫然とする。キャロルティナの馬鹿が無茶苦茶なことを考えると、顔を顰め頭をぼりぼりと掻きむしるのだが、いつしか自分が口元に笑みを浮かべていることに十郎太は気が付いた。
「あんの馬鹿がぁ……失敗できねえ作戦を立てやがってぇ」
エッケザックスが機兵から鎖を受け取る両手で持つと上空を見上げた。
ファティアはその時、目の前の計器に表示される数値を見て驚愕した。
魔力放射の数値が基準値を遥かに上回っていたためだ。それが、自分の乗る機兵から出ている物ではないということはすぐにわかった。それは、目の前に居る聖機兵から放出されている。
「あんな魔力放射に晒されたら、たとえ短時間であっても搭乗者は……」
モニターに映るエッケザックスが風を纏うと、凄まじい勢いで飛翔するのであった。
続く。
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