其の二十五 デイ・ライト
『蛇目野郎、てめえもこのからくり人形を持っていたのかあっ?』
十郎太も剣を構え切っ先を向けると、なぜかゲルトの機兵は剣を下ろして下を向いた。
戦いの最中に敵から視線を外すなどありえない、なにか誘っているのではと十郎太は身構えるのだが眼下にキャロルティナが居ることに気が付いた。
「あんの馬鹿、なにやってやがる……」
こんな所で巨人が二人剣を振り回して大立ち回りをすれば足元のキャロルティナを踏み潰しかねないので十郎太は身動きが取れないのだが、ゲルトもまた剣を下げたままで動かない。どうやら戦う気はないように見えた。
『そう言えば貴様にはまだ名乗っていなかったな。俺の名はゲルト・シュナイダー』
『へえ、聞いちゃいねえがな。まあ、そちらさんが名乗ったのならこちらも答えてやるのが礼儀ってもんだ。不破十郎太、俺の名は三途の川の渡し賃代わりになるぜ?』
お互い名乗り終えたところでキャロルティナが何かを叫んでいることに十郎太は気が付く。
「ジューロータああっ! なにを呑気に自己紹介しあっているのだっ! これは一体どういうことだっ!? なぜゲルトが聖機兵に乗っている? 私は知らないぞそんなのおおおおっ!」
『俺だって知るか。あの蛇目野郎の持ちもんなんだろう?』
「ありえんっ! 聖機兵は七聖剣の名を持つ聖剣でしか呼び出すことはできないっ! 聖剣は七聖剣の家系が代々受け継ぐもの、ゲルト・シュナイダーなどと言う男の事など、私は知らないぞおおおおおおっ!」
んなこと知るかと、実際に目の前にはエッケザックスに似た機兵が居て、ゲルトがそれに乗っているのだからゲルトの物なのだろうと十郎太は思うが、キャロルティナが五月蠅いので口には出さなかった。
『で? あの豚野郎の指示で、おまえはそれに乗って俺を殺りに来たってか?』
『奴との契約はこちらから切った。今回はこの不始末をつける為に降りてきただけのこと』
『不始末だあ?』
十郎太が聞き返すとゲルトは剣で地面を指す。そして、この地の底にまだ無数のスティマータとその卵が眠っていることを二人に告げた。
ゾーン自体はそこまで大量の蟲を飼ってはいなかったのだが、おそらく雄と同じ檻の中に雌が混じっていたのが原因だろうとゲルトは言う。
ゾーンも馬鹿ではない、当然卵に受精しないように雄と雌を分けて飼育していたのだが、雌雄の判別がおざなりになっていたのかもしれない。こんな仕事だ、雇った兵達も適当にこなしていたのだろう。
『そいつらを根絶やしにするってのか? ちまちまやってたら日が昇っちまうぜ?』
『ふふふ。貴様は腕は立つが頭は悪いようだな』
『喧嘩売ってるのかてめえ……』
十郎太の言葉は無視して、ゲルトはキャロルティナに問いかける。
『グリフォンの娘』
「キャロルティナだっ!」
『……キャロルティナ。貴殿は聖機兵の本来の能力を知っているか?』
その言葉にキャロルティナは小首を傾げる。聖機兵の本来の能力……。
言われてみれば、そもそも聖機兵のことなどキャロルティナはなにも知らなかった。ただ辺境の地で七聖剣が操った最強の機兵であるということ以外、なにも知らなかったである。
『聖機兵はただの機械に非ず。その内に魔力を宿した最強の兵器であるからこそ、スティマータに対抗しうる唯一の兵器として存在し得たのだ』
その言葉に十郎太は先程スティマータを撃った雷が脳裏に浮かぶ。つまりあれは、ゲルトの聖機兵の放った一撃であると。巨大なスティマータを一撃の内に即死させるような雷を放ったのだ。
『俺の乗る聖機兵リジルと、貴様の乗るエッケザックス。二機が同時に魔力を放てばこの地下闘技場を吹き飛ばすことも可能だ』
「待てゲルトっ! 今なんと言った? リジルだと!?」
キャロルティナは驚くのだが、十郎太は気づかずにゲルトに迫っていた。
『
『聖機兵には各々、固有の属性がある。雷を操れるのはこのリジルのみ。貴様にはもうわかっている筈だ。聖機兵と一体になった貴様にならな』
『上等だぜ……』
十郎太はエッケザックスを跪かせると、コクピットを開いてキャロルティナに乗るように言う。なんとかよじ登ってきたキャロルティナは中に転がり込むと、十郎太の膝の上に座り騒ぎ立てた。
「ジューロータっ、聞けっ! あの男の乗っている聖機兵は」
「黙ってろ、なんとなくだが頭の中に浮かんできてるんだよ」
「違うんだジューロータっ! これは大事な事なのだっ! あの聖機兵リジルはあいつの」
キャロルティナのことは無視して十郎太は集中する。頭の中に流れてくる微かな映像を手繰り寄せるように。
風を感じたその瞬間、十郎太は剣を振り上げた。同時にゲルトも技を放つ。
巨大な竜巻と雷が融合し、地下闘技場に嵐を巻き起こすと周りの建造物を次々と破壊して巻き込んで行く。そして、天上が抜けると数百トンもの土砂や瓦礫が降り注いでくるのであった。
*****
エスタフォンセ・トワの象徴とも呼べる巨大な建物がすり鉢状に陥没した穴に沈んでいる。観客達や周りの市民たちはゲルトの指示で兵士達が非難をさせていた為に大きな被害はなかった。
エッケザックスの肩の上から見下ろす光景にキャロルティナは息を飲んだ。これだけの土砂の生き埋めとなれば、スティマータ達も無事では済まないだろうとキャロルティナは胸を撫で下ろした。
顔を上げると、遠く、山の端から差し込む朝陽がとても眩しかった。
続く。
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