第112話 眠りの中で

きっとこれは夢だから

僕はここから醒めたくないの

寒い夜の毛布みたいに

ほこほこ体をあたためて

ふわふわぬくもりに包まれながら

淡い色した波間にゆれる

ぼんやりとした幸せが

辺り一面広がるような

こんな穏やかな世界から

もう一歩も出たくはないの


だって目が覚めた現実は

こんなに優しいはずないから

包んでくれるものなんてなくて

剥き出しの肌は傷だらけ

責める言葉はいつも胸を刺し

新しい血が流れ続ける

そんな世界から逃げるように

僕はそっと目を閉じたのだ


きっとこれは夢だから

僕はここから醒めたくないの

痛いことも苦しいことも

もう何もかも見たくない

僕も僕以外の人も

ただゆらゆらと漂って

何も感じたくないから

だからこのまま眠らせて

夢の中にだけいさせて

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