第2話

気が付くと茜色の円状の地面に僕は立っていた。

体育館一つ分くらいの円で、中央が丸くくぼんでいるのが分かる。周りは真っ暗で、いたるところに色とりどりの扉と、あとは遠くに星みたいなものが見えるくらいだった。


このあと何が起こるんだろうとぼんやりしていると、こんっと軽い音を立ててごつごつしたキャラメル色の球体が落ちてきた。そしてその陰から僕の膝丈ほどしかない人が顔を出した。


深夜のように真っ黒なコートを着て、満月色の帽子と靴を身に着けている。帽子から麦色のくしゃくしゃの髪が少し垂れていて、大きな黒い目と、頬にはそばかすが見える。身長は小さな子どもほどしかないけれど、年齢も性別も分からない不思議な雰囲気を持つ人だった。


「誰?」

帽子の人は返事はせずにその球体を指差した。

球体はその人がすっぽり隠れるくらいの大きさだったから、もしかしてと思って僕は言った。

「持てってこと?」

帽子の人はうなずくとその土地の中心に向かって歩き出した。黙って僕もついていくと、中心は朝空色の透明な液体で満ちていた。


促されるままにそこに球体をひたす。


帽子の人はしばらくその様子を見ていたけれど、その場に膝を抱えて座った。僕も横に並んで座って、球体の様子を見守る。そこら中に浮いている扉も遠くの星々も音を立てないし、帽子の人は一言も話さないけれど、不思議と怖くはなかった。


少し経つとしゅわしゅわした音がして、金色の泡とともにごつごつした部分が溶けはじめた。泡は液体から浮いて金色の粒になり、次々飛んで行った。それを夢中になって見ている間に、周りのごつごつが全て無くなって、つるつるになった球体が浮かんできた。それは僕らの目の前で一度強く光ったあと、ゆっくりとどこかへ飛んで行った。


球体を目で追っている間に、気が付くと帽子の子も消えていた。



そこで僕は目を覚ました。



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