うたた寝

戸賀瀬羊

第1話

生まれた時からぼーっとしてると言われていた。地味だなとも言われていた。確かに最近気づいたことだけど、学生の時から運動は中の下だったし、勉強もこつこつやるわりには平均だった。社会に出てみても怒られもしないかわりに褒められもしていない。


友達もいないわけではなかったけれど、社会に出てからは付き合いも薄くなっていった。と言うのも、ご飯に行って、お金や恋人や結婚といった話が出ても、自分にはそれがあまり重要なことに思えなくて、話が合わなくなっていたから。


僕にはそんなことより、好きなこととか自分の周りの世界のこととかを考えたり話したりする方が重要だった。例えば今日は飛行機雲が見えたとか、月が大きかったとか、蜘蛛の巣が水を吸って宝石みたいになってたとか、家の前にいつも現れる猫の散歩コースはどこなんだろうとか、宇宙はどうなってるのかなとか、そんなこと。


昔、大学生の頃まではそれで良かった。生まれた時からの幼馴染が、他の人と僕とをつないでくれていたから。でも今その子は遠くに就職してしまって、僕は取り残された。それから僕だけ時間がゆっくり流れているような、置いていかれているような感覚を覚えながら、他の人からしたら毎日代わり映えのない日々を送っている。


そんな僕の最近の楽しみは、甘いものだった。

週に一度、土曜日の午後にお菓子を楽しむってのが自分へのご褒美。


今日も1週間のご褒美に浮き星というお菓子を買った。様々な味があって選べなかったので、全部入っているものにした。


金平糖みたいな形だけれど中が砂糖ではなくあられになっていて、甘さが控えめなそれを、ぱくぱくさくさく食べて、紅茶を飲んで、本を読む。


ほわっと、あたたかくて柔らかい空気に包まれて、いつの間にか夢を見ていた。

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