終わる―Happy end―

冬が近づいて、少し寒くなってきた。

だけど俺の気持ちとしては、その寒ささえもどこか温もりがある様に思えた。

俺の手の中で、氷奈も同じ事を考えているのだろうか。

顔を見れば、言葉にして聞くよりも明らかだった。

寒い場所は嫌いなはずの氷奈が、俺のスマホの中で安心して眠っていた。


結局、俺がぶつけた思いの答えは、あっさりとした2つ返事 だった。


「氷奈、俺は――――、氷奈が好きだ」

『じゃあ付き合おっか』

「……へ?」


記憶は戻らなかったが、氷奈は俺の事を変わらず好いてくれているらしい。


俺と氷奈は、こうして恋人になった。




それからしばらくして、俺と氷奈はかつての約束を果たす事にした。

そう、夏祭りの花火である。


『……気をつけてね?』

「あぁ、今度は事故らないから!」


盛大にフラグを建ててしまったが、宣言通り事故に遭う事もなく、俺たちは祭の会場までやって来る事が出来た。


花火まではあと30分もない、会場は人でごった返していた。


「ここからじゃ花火見えないなぁ……」

『そうだね……どうする?』


その時だった。

『裏山の高台に行けば見えるかも!!』


氷奈ではない、別の少女の声がした。

でもそれはどこか懐かしくて、心が暖かくなった。


「よし、りんご飴買うから急ごう!」


自転車を爆走させて、目指すは高台。

何故かこの高台を、俺は覚えていた。


それは、俺ののお気に入りの場所だった。

でも、何故今思い出したのか。


高台の頂上に着くと同時に、最初の花火が打ち上げられた。

位置的に近いのか、音が良く響いた。

それは、耳鳴りを催すほどに。


「――――!」

『あ――――!』




『ねぇ……また来年も来ようね、景ちゃん』

「ああ、二人でまた来よう。【氷奈】」


俺も氷奈も、全て思い出した。

花火を見に来る約束は昨日どころか、毎年していたじゃないか。

それなのに。


氷奈は、俺を置いてきぼりにした。

俺も、氷奈を忘れようと――――。


二つ目の花火の閃光と爆音が響く。

俺はもう涙で見えない目を擦って、氷奈を見た。氷奈もまた、俺を見ていた。


「ごめん……ごめん……ッ!!」

『大丈夫、私も忘れてたんだし、お互い様だよ』

「……思い出したのか?」

『うん、全部思い出したよ。景ちゃん』


液晶画面が、これ以上邪魔だと思った事はない。何せ亡くなったはずの彼女が、そこにいるのだから。


『スマホの中でしか暮らせないけど、そのスマホは景ちゃんがずっと肌身離さず持っててくれる。

これからは、ずっと一緒にいれるね?』


そうだな、と俺は言い、空を見上げる。

花火が俺たちを祝福するかの様に、鮮やかに彩られていた――――。


(Never-ending)

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氷湖の下の奈落に月は浮かぶ アーモンド @armond-tree

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