溢れる―Overflow―

『――――私からの、30個目の質問ね』


気が付けば、このモヤモヤを抱えたまま『質問生活』が1ヶ月を迎えた。

お互いに関してかなり知る事は出来たものの、肝心な部分がまだだった。

俺はしかし、【それ】を聞く事は出来ず、今回も無難な質問をしてしまった。


『……景一さんは』

「呼び捨てしてくれよ」

『……うん。景一は、――――』


何故か、その言葉を言うのを躊躇ためらっている様だった。

俺は彼女の目を見て、言った。


「ちゃんと言ってくれ」

『……』

「言葉にしてくれなきゃ、分からない」

『は……き……?』


凄く恥ずかしそうに、聞き取れないほどか細い声で、氷奈は言う。


「頼むから!!」


俺は我慢の限界に達し、氷奈に叫んだ。

氷奈は肩を震わせ、怯えた様子で俺を見る。


「頼むから……はっきり言ってくれ……」


そうじゃないと、俺が耐えられない……。

もう、このモヤモヤとの同居が辛かった。


『……景一は、私の事嫌いなの……?』

「……は?」




氷奈曰く、『私を見る景一の目の奥に、私じゃない誰かがいる』のだと言う。

もっともその通りだが、氷奈が見た『誰か』はいつかの『氷奈』自身であるのが心苦しかった。


俺は氷奈に正直に打ち明ける事にした。

そう、俺はまだ彼女に、彼女が記憶喪失状態である事を伝えていなかったのだ。

そして彼女に抱いていたこの気持ちも含めて、全てを打ち明ける事にした。




「……氷奈、俺は――――」





次回、全てが終わる――――。

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