増える―Include―

胸ポケットのスマホの中から、いつの間にか寝息が聞こえてきた。

俺はホッとして、自転車を取り敢えず通りがかりの公園に運ぶ。


そしてベンチに座り、彼女に触れて起こさない様に配慮しながら、【設定】のアイコンをタップした。


彼女はどこから来たのか?

何故俺のスマホに居座っているのか?

その疑問を解決する為だった。


「……むにゃ……食べられな……」


寝言を呟く氷奈を見守りながら、俺は【設定】の【アプリケーション管理】を見てみる。

SNSやらゲームやらがある中、ものを探していく。


「……ない。アプリじゃ……ない?」


どうやら氷奈はアプリケーションではないみたいだ。だとしたら何だろう。

このご時世に合わず、俺は機械音痴である。

もし氷奈がアプリの類だったら、誤操作で彼女を消してしまわないか心配だったのだ。

それを彼女自身に相談する事も恥ずかしくて出来なかったから、俺は黙って調べる事にしたのだった。


「……んぅ……景ちゃん……?」

「あ、おはよう。疲れたから休憩してた」

「へへ、私と一緒だ」


一緒。それだけで嬉しいものなのか。

彼女の顔はそんな俺の疑問など、さらりと砕いていく。


「……さぁて、今は……まだ8時半!?

時間の流れって遅いなぁ」

「いや、家を出たのが早すぎたんだよ。

祭までまだ10時間もあるし、何処か日影ででもしばらく休もう」

「そうだね、今日はやけに暑いし」


そうして俺と氷奈は自転車を押して公園内を移動し、木漏れ日の涼しい場所に来た。

最近にしては珍しい、周りを木に囲まれた公園の一角である。


「あ゛ぁ゛涼しいぃぃ!!」


直射日光がないだけで、体感温度はこんなに変わるものなのか。

俺と同意見だった様で、氷奈も『うん!とっても涼しいねぇ』とニコニコしていた。


自販機でスポーツドリンクを買って、ふと気が付いた。

氷奈は電気をが、飲むものはあるのだろうか。


「喉は乾かないかなぁ。ほら、私の体って水分とかある訳じゃないし、ね?」


なるほど、でもこの清涼感を味わえないのは少しもったいない気もする。

……あれ、気がつけば俺は氷奈の事ばかり気にしてる。

もしかして、俺は氷奈の事が……?


一目惚れしたとは言ったが、実はこの時俺は自分の抱く恋心に気付いていなかったのだ。

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