治す―Repair―

「あれ、浴衣は?甚兵衛は?」

「着ないよ恥ずかしい、今時和服を着るのはリア充だけだろ――――」


氷奈がとてもニヤニヤしている。

あ、彼女はだった。

慣れていないとこういう事をつい言ってしまう。ニヤニヤこそしているが傷ついたはずだ。


「その……ごめん」

「大丈夫、いきなりだったもんね……」


若干気不味くなってしまった。




軽く朝食を摂り、俺は彼女に問う。


「そういえば氷奈はご飯どうすんの?」

「電気食べれるから大丈夫!」

「……それってまさか……」


急いでスマホを手に取り、画面を確認。

充電フルだったのが残り64%まで減っていた。

「……容量大きめの予備バッテリーでも買うか」


となれば善は急げ、多分ショップはもう開店していたはずだ。

俺はスマホを胸ポケットに入れると、自転車を漕いで数百メートル先のショップへ走った。


風が心地よく肌を撫でるから、俺は自転車での移動が好きだ。


「……心臓の音が聞こえる……ふふっ」


道中、氷奈はずっと安心した顔だった。




「……お客様のスマホですと、こちらのバッテリーなどよろしいかと」

「容量も結構大きいな……よし、これで」


割と即決できたのは嬉しい事だった。

ショップの店員がいい人で良かった。


俺はまた自転車を走らせる。ただし家ではなく、祭会場でもない。


「どこに行くの……?」


少し不安そうに氷奈が訊いてくるものだから、俺は安心させる為に少しだけ嘘をついた。


「回り道だよ。直通の道が工事中なんだ」


俺がこの時下らない嘘なんかついていなければ、多分、運命は変わったのかもしれない。

お互いに傷つく事もなかったかも知れない。

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