氷湖の下の奈落に月は浮かぶ

アーモンド

起きる―Awake―

6時だよ、起きて。起きてったら、ねぇ。

……もう、ヒナちゃんすねちゃうぞっ!


「……んぐ……」


昨日は遅くまで忙しかったから寝不足なんだ。悪いけど、もう少し寝かせてはくれないだろうか?


――――ダメだよ、昨日約束したじゃん!

今日のお祭り、花火見に行くんでしょ!!


ああ、そんな約束もしてたっけな……。

……

違和感を感じて、俺は飛び起きる。


「……おそよう、きょうちゃん」

「誰だ、どこにいるんだ!?」


声は近くから聞こえるが、姿が見えない。

「もう、こっちだよこっち!!」

「……え……?」


俺のスマホの中からだった。

「彼女の居場所も見つけられないとは、景ちゃんはま~だ寝ぼけてるなぁ……?」

「なんで俺のあだ名知ってんだよ!?

おま……君は一体誰だ!」

「……忘れちゃってるよね……。しゃあない、一から教えてあげよう!

私は景ちゃんの彼女【氷奈ヒナ】ちゃんだぞ!

正しくは有栖川氷奈だけど、名字は将来変わるんだ、『凪原』に」

「!!」


凪原といえば、俺の名字だ。

だが何故俺?そして何故スマホの中に?

分からない事だらけだが、とりあえず色々と質問してみる。


「氷奈さんの歳は?」

「さん付けやめろ!彼女だぞ!!……歳は17だよ」

「俺と同じか……」

「何で残念そうなの!?喜んでよ!!」


いや、俺好きな人とか出来た事ないし。

あまり彼女とか考えてなかった。

だから何が正解とかタイプは何とか、っていうのも考えた事が無かったのだ。


「じゃあ氷奈」

「なになに!?」


さん付けをやめると、氷奈は嬉しそうに目を輝かせた。何だかこちらも嬉しい。

だけどスマホの中を跳ねるんじゃない!

おかげでアプリのアイコンがバラバラになってしまったじゃないか。


「あ、ごめんごめん。後で直しておくから。

ところで、……呼び捨て、してくれたね?」

「…………!?」


な、何だ!?

このスマホの中の少女が微笑んだ時、一瞬だが俺はメチャクチャときめいた。

もしやこれが……?


「……恋ってヤツなのか……?」

「どうしたの景ちゃん、熱でもあるのかな?それとも私にドキドキしてくれたのかな?」

「……どっちでもない。お祭り行くぞっ」




照れ臭くて面と向かっては言えなかった。

が、この時俺は彼女に一目惚れした。

そう、好きになってしまったのである。

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