生き返ったと思ったら家族が増えていた件について

@k544da

第1話 蘇る俺

不注意だったといえば、そうかもしれない。

学校からいつものように歩いて帰り、いつものように横断歩道を渡ろうとした。

そして、いつものように右を見て左を見た。

いつもと違うとしたら、左を見た際に既にトラックが迫っていたことだ。歩きながら左右確認するもんじゃないね。

トラックを視認したものの、俺の身体はそれに対して反応できず、足は動かないままだった。よく間一髪のところで助かったーとかあるけど、俺にしてみればみんなよく動けるなって話だよ。マジで。

そのまま俺はトラックにぶつかり、すげー痛かったってのは覚えている。

「…で、だ」

俺は今、よく分からない真っ白な空間にいた。これが死後の世界というやつか。さてさて、天国なのか地獄なのか。

それにしても不思議な空間だ。さっきから俺は歩いているのだが、歩いている気がしない。そもそもそこに地面がない。屈めばつま先の奥まで手が伸びるし、ジャンプしてみようとすると、なぜか足が伸びるだけだ。そう、例えるなら宙づりになっている状態。もしかして無重力?と思ったが、どうやら横になることは可能だ。地面がないのにある、なんとも不思議だ。

『待たせたの』

「うおっ!?」

真っ白な空間に突如現れ、老人のような音を発したのは黒いもやみたいなものだった。

「何これ、非科学?」

『ここはそなたのこれからの行き先を決めるところじゃ』

行き先…?ここが天国とか地獄とかじゃなくて?

『違う。それを決めるのじゃ』

俺の心が読めるのか!?

『読めるぞ』

読まれてた!

『行き先は天国、地獄、現世、異世界じゃ』

選べるの?

『いや、こっちで決める』

「理不尽!」

声に出してツッコんでいた。

じゃあ、俺はどこに行けるんだ?

『そなた、母親がいないんじゃな』

突然だな、まあいないけど。

『そなたの母もここに来たのだぞ』

へえ、じゃあ母さんはどこに行ったんだ?

『天国じゃ』

それは良かった。

『ところで、天国はそこで頑張った分だけ願いが叶えられるんじゃが』

そうなのか、じゃあ俺も天国に行きたいな。

『そなたの母親の願いはな』

『「子供たちが若くして死ぬようなことがあったら生き返らせてほしい」じゃった』

「…は?」

『いい母親を持ったな』


          ●


「…ちゃん!お兄ちゃん!」

目を開けるとそこにいたのは妹の夏樹だった。

「お父さん!お兄ちゃんが目を醒ましたよ!」

「春人!おお春人!良かった!」

今度は父親の姿が目に映った。

…俺は今…寝てるのか?

口元に湿り気を感じる。どうやら酸素マスクを付けているようだ。さらに首を少し上げてみると、手から何本もの管が出ている。…ここは…病院?

「志木春人さんですね?ご自分が誰だか分かりますか?」

次に視界に入ってきたのは緑色の白衣に身を包んだ男。緑色なのに白衣って面白いな。

「…志木春人で合ってます…」

酸素マスク越しに聞こえるのかな。医者が頷いているから聞こえてるんだろうな。

「私は分かる?お兄ちゃん?」

「…なつき…」

そう言うと夏樹は目に涙を浮かべて俺に抱き着いてきた。中学生になってまで泣くなよ…あと抱き着くなよ…。

「一命は取り留めたようですね。良かったです」

医者はそう言うと俺の元から去って行った。

「心配したぞ、春人」

「…父さん。俺はどうなってんだ?」

いつも通り帰り道を歩いていたら。トラックが――。

そこで俺の記憶は途絶えている。

「交通事故に遭ったんだ…三日前に」

「みっか!?」

俺は思わず叫んでしまった。その衝撃でお腹のあたりが痛む。

「本当に…死んじゃうかと思ったよお…」

抱き着いたまま夏樹が泣きじゃくる。ちょっと待て、今布団で鼻水不可なかったかお前。

「お前まで亡くしたら、母さんに……」

「先生!こっちの子たちも目が覚めました!」

何かを言いかけた父の目が声のする方へ向いた。それにつられて、俺も首をそちらに動かす。

「それは良かった!君、自分の名前は分かるか?」

先ほどの医者の声だ。しかし、その声に対する反応はない。

「君は?自分の名前、分かるか?」

俺以外にもう二人、眠っていた奴らがいたらしい。しかし、両方とも反応は無かった。

「…いえ、私は自分が誰なのか」

「…僕も、えっと、ここは病院ですか?」

目を醒ましたはいいが、記憶がはっきりしないようだ。

「あの人たち、お兄ちゃんの友達?」

夏樹が訪ねてきた。

「何で?」

「一緒に事故に遭っていたから」

…は?あの事故、俺以外にも被害者がいたのかよ。トラックのドライバー、ドラッグでもやってたんじゃねーの。トラックがドラッグって。なんつって。

「いや、知らない。そんな大きな事故だったんだな。暴走トラックだったとか?」

「んーん。警察の人が言うには――」

「夏樹、今はもう少し春人を寝かせてやれ」

父が言葉を遮る。なんか意図を感じるな、今の。

「春人。とにかく生きてくれて良かった。もうしばらくは入院しなきゃだから、欲しいものがあったら何でも言いなさい。夏樹、今日は帰ろう」

俺が欲しいものを言う前に、父と夏樹は病室を出て行った。


俺が退院したのは、その一週間後である。それも、同じ病室だった二人と一緒に。

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