唯一の読者(ご主人様/作者/創造主編)

 か、感想がきた!


 俺はパソコンの前で震えるのがわかった。


 感想なんて初めてもらうものだった。

 部屋の隅にいた美青年、いやハンサムな王子はなんだと近づいてくる。


「るほー、俺。ついに感想をもらったぜ。めっちゃ、嬉しい!」


 俺は踊りだしたい気分になりながら、どんな内容が書いてあるのかとクリックする。


『おい、作者。

 お前の話は面白い。

 しかし、もっとるほーを活躍させたほうがいいと思うぞ。』


「………」


 えっと、これって。


 俺はなんだか嫌な予感がして、隣の男を見つめる。

 端正な顔の男はその青い瞳を閃かせて、俺を見返した。


「ふむ。ふむ。こいつの言うことは正しいな。わしもその意見に賛成だ」


 男――るほーはあごに手を当て、頷く。


 あやしい。

 『おい、作者』から始まるなんて感想、ありえないし。


「なあ。るほーこれって」

「創造主。わしはここで消えるからな。がんばって続きを書くがよい」


 俺の問いに答えないまま、るほーはそう言うと煙のように消えた。


 静かになった俺の部屋で時計が時を刻む音だけが響く。

 時間は1時。


 ま、いい。今日は寝るか。


 俺はるほーに真相を確認しないまま、眠りについた。


 その日から、俺は毎日感想をもらうようになった。


 出だしはいつも『おい、作者』だ。

 そしてるほーはその日を境に部屋に現れることはなくなった。


「できた」


 1週間ほどして、俺は「勇者ライアン」を書き上げた。

 もらった感想はきっちり7個で、俺は笑ってしまった。


「るほー」


 元に姿に戻ったるほーが嬉しそうに俺の声に反応する。


「これでやっとわしが活躍できるわけだな」


 一瞬だけどね。


 嬉しそうに笑うるほーに、俺は心の中でそう答える。


 「4」で俺はるほーを元に戻した。

 しかし、「5」では王子様の姿にまた戻ってもらうつもりだ。


 「4」は毎日送ってもらった感想の希望通り、るほー大活躍の話にした。


 感想をもらえるのは嬉しい。

 やる気もおこる。


 例えそれが、るほーからだとしてでも。

 

「また『5』を書くつもりなんだ。感想もらえると思うか?」

「……多分な」


 牛の化け物になったるほーは渋い顔をで頷く。


 そうして、俺はるほーと別れ、目を覚ました。


 相変わらず、お気に入りといわれる読者は0だ。しかし、感想欄はあいつのおかげでにぎわっている。


 るほーありがとう。


 俺はそう感謝しながら、パソコンの電源を落とす。

 そして背伸びをすると、今日も始まる現実世界の日々を思った。



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