誰のために書く?(キャラ編~るほー)三人称
「るほー。俺達って案外幸せかもな」
フリーランド王国の王、ライアンはしみじみと向かいに座る牛の化け物に話しかける。
牛の化け物―大魔神るほーは鼻をふんと鳴らし、笑うと立ち上がった。
「何かと思えばくだらんことでこのわしを呼び出しやがって。だいたいわしは大魔神でお前と馴れ合うつもりはない!」
るほーは、宿敵である元勇者のライアンを威嚇するように怒鳴りつける。
「怒るなよな。るほー。大魔神といっても、もうお前を怖がるものはいないぞ。いつの間にかファンクラブもできてるみたいじゃないか。みんなお前が金髪の王子様の姿に戻ることを待ってるぞ」
「くうう。あんなか弱い姿がわしの元の姿なんて、今でも信じられない。あいつに言って、二度と元に戻らないようにしてもらう。ライアン、そうなったらお前を倒しに行くから覚えておけ。せいぜい、今を楽しんでおくんだな!」
悪党らしく高笑いを浮かべると、るほーは空に向かって飛び上がる。
「るほー!作者にお礼を言っておいてくれよな!そして続きを書いてくれと頼んでおいてくれ」
ライアンは空に舞い上がったるほーにそう声をかけるが、当のるほーは聞く耳を持つ気はないらしい。下を見ることもなく、猛スピードで空高く飛んで行った。
「おい!」
「うわっつ、るほー!今日は何の用なんだよ」
紙屋マモルは突然現れた牛の化け物、サイズはさすがに部屋に現れることで気を使ってか、小さめになったるほーの登場に驚いた。
「もう寝るつもりか?」
何度も訪れているマモルの部屋、消えているパソコン、部屋着に着替えた彼の姿を見て、るほーは彼が就寝前だと気がつく。
「ああ、そうだけど」
マモルは少しびくつきながら頷く。
紙屋マモルは、るほーやライアンを生み出した作者だ。ちなみにライアンとるほーは彼の小説の登場人物だ。どういうわけか、るほーは物語の世界を飛び出して実体化し、彼の前に現れることができる。
しかし、行動できる範囲は彼の部屋だけで、しかも他の者には見えないようになっている。るほーはこの能力を使って時たま彼に前に現れ小説の続きを書くように促している。
「プロットは立ったのか?」
「ああ、まあね」
マモルは顔を引きつらせながら笑う。
るほーはその笑いに嫌な予感を覚え、身を乗り出す。
「おい、もし、わしを元のへなちょこに戻したら覚えていろよ」
「………ああ」
彼はぎくりとした後、頷く。
やはりそれを考えていたかと、るほーは今日ここに来てよかったと安堵する。
王子の姿に戻るとまったく魔法が使えないどころか、厄介な事態に陥ってしまう。部下の魔女めりーに追い回され、迫られる。王子の姿では腕力もないから、つかまったら最悪だ。
大魔神のときは部下の魔女はクールで、使える奴だったが、今はもうまるっきり使えない。気がつけばるほーを元の王子の姿に戻そうと企んでるようで、油断ができない、ライアンより厄介な敵になっていた。
「まあ、いい。お前がわしを大魔神のままで置いてくれれば、わしはそれで満足だ。今日はゆっくり寝るがいい」
「そうか!
よかった~」
マモルは満面な笑みを見せると電気を消そうと、スイッチに手を伸ばす。
「帰らないのか?」
るほーが部屋から去らないのを見て、マモルは手を止める。
「……ライアンの野郎がお前に感謝していたぞ」
「なんで?」
「……お前はわしたちを諦めないだろう? 最近、ドリームランドも巨大化して、他の作者の登場人物も入り込むようになったんだ。それで、ライアンは消えていく奴らをみて、お前のことを偉いと思ったらしい」
「………?」
マモルはわからないという表情を見せる。
「お前はわし達を諦めない。だから、わし達はドリームランドに迷い込むことがあっても、元の世界に戻れる。だが奴らは違うからな。一度生み出されたわしたちに魂を宿ることを知らない作者によって消される。いや、忘れられるが正しいか。だから、奴はわしたちが幸せだと言っていたぞ」
「るほー……」
マモルは牛の化け物から語られる言葉に胸が熱くなる。
彼には何度も励まされ、今までどうにか書いてきた。しかし、今日の励ましの言葉は格別で、マモルは思わずるほーに抱きつく。
「ありがとう!」
「わしの言葉ではない! ライアンだ! 離せ!」
るほーはマモルから離れると、少し顔を赤らめてそう叫ぶ。
「………わかってる。ライアンにありがとうっと言っておいてくれ。よっし、これでやる気百倍だな。実はプロットはできてるんだ。やる気のあるうちに書こう」
マモルはパソコンを再び立ち上げると椅子に座る。そしてぱちぱちっとキーボードを叩き始めた。
るほーはやる気に目覚めた創造主の背中を目を細めてみると、言葉をかけることなく姿を消した。
マモルはその日、2時近くまでキーボードを叩き続けた。
彼のやる気はその後も続き、1週間後『勇者ライアン5-悩める大魔神』書き上げた。
内容は、るほーが怒りで顔を真っ赤にさせそうな内容だ。
マモルは美形の王子様が夢に現れることを予想しながら、パソコンを閉じるとベッドのもぐりこむ。
予想通り、夢にるほーが現れ、金髪に髪を振り乱し怒っていた。しかし、めりーが現れるとあっという間に姿を消す。
マモルは「いやん、るほー様」というめりーの声を聞きながら、目を覚ます。
窓を開けると朝日が目に入った。その眩しさに目を細めながら気分は爽快だった。
誰のために小説を書く?
それは登場人物のためだ。
紙屋マモルはきっとそう答えるだろう。
そして今日も大魔神るほーに怒鳴られながらも書き続けるだろう。
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