AGAIN (キャラ編~るほー)三人称
「るほー頼むよ。本当」
「なれなれしい!」
大魔神るほーは自分にすがりつく勇者ライアンの手を振り払う。
「だってさ、お前が彼に話せば、きっとまた書いてくれるから」
「そうよ。るほーお願い!」
その隣でライアンの妻アリアが両手を重ねて拝む。
るほーはその端正な顔を怒りで引きつらせたが、しぶしぶと承諾した。
大魔神るほーとその仲間達は『勇者ライアン』というシガナイ小説の登場人物だ。
ちなみに作者は紙屋マモルというやる気のないサラリーマン。
『勇者ライアン』は彼が高校生の時から書いているもので、なんと現在3作目を執筆中だ。ところが、半年前に彼がまたスランプに陥り、書かなくなったのだ。
物語が進まなくなり半年が経過。
登場人物達はドリームランドへと迷い込んだ。ドリームランドというのは、作者に諦められた小説の登場人物が迷い込む世界で、物語が物理的に消滅させられる前の、ゴミ箱みたいな世界だ。
登場人物はそこで、再び物語に戻れることを祈って過ごすが、大概1年くらいで消えてしまう。
しかし、るほー達は2回ほどこの世界に迷い込んでるが奇跡的に復活している。
それは、るほーが創造主である作者に直訴したおかげで、ライアンたちは敵ながら、その手腕を買っていた。
「おい、お前!」
「うわ!るほー。久しぶりだな」
作者であるマモルは自分の夢に突如現れた金髪の美形を見て、嬉しそうに笑った。
「わしが出向いた理由がわかるな?」
「わかってるよ。俺が続きを書かないからだろう?」
「そうだ。しかも、お前! 書いてるものを一部消去しただろう!」
「え、あ! わかるんだ。怖いなあ」
「怖いじゃない。しかもわしが元の姿に戻った部分を消しただろう!」
「あ、え、うん」
「どうしてだ!」
「だって、つまんないじゃん」
「………」
創造主である作者の一言で、るほーは唖然として黙りこくる。
大魔神である、るほーは物語のラスボスだ。1作目で勇者ライアンに倒されたが2作目で復活した。そして魔法で醜い姿に変えられた王子様だったという落ちがついて今に至ってる。
るほーは美形の王子様姿を心底嫌っていて3作目で元に戻れると期待していたのだ。
「ごめん、悪い。だってつまんないなあと思ったんだ」
それはないだろうとるほーが憮然とした表情を浮かべる。それに構わずマモルはさらに爆弾発言を続けた。
「るほー、やっぱり俺だめだわ。数年ぶりに書いたけど、やっぱり書けない。いや書けるんだけど、書いててむなしくなるからさ。仕事で疲れても頑張って書く。で、投稿するけど、誰も読んでくれないだろ?」
「誰もじゃないだろう?」
「まあ、3人くらいはいたけど、感想もないから本当に読んでるかわからないだろう?」
「確かに。そうだな。じゃ、お前が書いてる理由は人に読んでもらうためなのか?」
「……うーん。わからない。書いてるときは楽しいんだ。お前やライアンが活躍してるシーンを書くのは大好きだ。だけど、投稿して反応がないと、くそっと嫌な気持ちになる」
「アホだな」
「アホ?」
「そうだ。だったら、投稿などしなければいい。ただ自分で書くだけで十分だろうが」
「……そうだけど。書いたら誰かに読んでほしいし」
「……まったく。よくわからん男だな」
「俺もわかんないんだよ。だから、書けない」
「………」
作者の言葉に、るほーはどう答えようかと頭を捻る。
るほー達登場人物にとって、読者なんてものはどうでもいい。物語が消されず進んでくれるだけで十分なのだ。
だから、マモルが毎回同じ理由で悩んでるのがアホらしく思える。
「お前の思いはわかった。だが、あきらめたければ、わしが元の姿に戻る3作目を書き終わってからあきらめろ」
るほーはそう言って作者に背を向ける。
マモルが小説を書くことを続けるか、やめるか――そんなことは、るほーにとってどうでもいいことだった。自分がドリームランドから抜け出し、活躍することが重要だった。
しかしそこでマモルは目を覚ましたらしく、るほーは白い空間に一人取り残される。結局答えを聞くことはできなかった。
「はっはっはっ~」
心底嬉しそうな笑い声が城の中で響く。
「くそっつ」
牛の姿の化け物を前に、勇者ライアンでありフリーランド王国の王が舌打ちをした。
「覚悟するんだな!」
大魔神るほーは笑いながら、握ってる棍棒を振り下ろした。
がしっと音がして、ライアンがそれを受け止める。
「そんなの嫌~」
男達、いや勇者と大魔神が真剣な表情をして睨み合っている中、間の抜けた可愛らしい声がした。それは、るほーの配下である魔女めりーで、彼女はホウキにまたがり宙から現れると、魔法の杖を振り下ろした。
「元に戻って~~!」
めりーの言葉と同時に杖から光が放たれる。光は勇者でなく、大魔神を襲う。るほーは断末魔の声をあげ、煙に包まれた。
「きゃーやったわ。私の王子様が戻ってきたわ!」
煙から現れた、るほーの姿を見てめりーが黄色い悲鳴を上げる。
「るほー。これでお前の負けだ」
普通の人間、美形の王子様に戻った大魔神に勇者が剣を向け、不敵に笑った。
「くそっつ」
るほーは悔しそうに舌打ちしたが打つ手はなく、降伏するしかなかった。
こうして魔法を使えなくなった大魔神るほーは勇者ライアンの元に降り、フリーランド王国は元の平和を取り戻した。
めでたし、めでたし。
「おい!ふざけてるのか?」
「あ、やっぱりだめだった?」
「当然だろう。なんだ、あの終わりは」
「だって他に浮かばなかったからさあ」
はははと夢の中で作者は笑う。
確かに終わらせろといったがあの終わりはないだろうと、るほーは怒りで握りしめた拳を振るわせる。
「だめだな。4作目を書け。今度こそきちっと終わらせろ」
「え、だって、無理だ。そんなこと。だいたいるほーが物語を終わらせろっていったじゃないか!」
「確かにそうだが、あの終わりは納得できん。絶対に4作目書くんだ。じゃないと毎日夢に出てきてやる!」
「え、うそだろう?お前が夢に出てくるとだいたい朝寝坊するんだ。やめてくれ!」
「じゃ、書くんだな」
「……う、わかった」
そうして、書くことをやめたい男は、大魔神のため書き続けることになった。
オンラインの小説投稿サイトに定期的に更新される彼の作品は相変わらず、読まれていないようだ。
しかし、彼はそれでも書き続けている。
るほーの怒声とともに。
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