The End of the Story(ご主人様/作者/創造主編)
「また悩んでいるのか?」
「うるさい!なんでお前は、俺の夢に出てくるんだ!」
俺はふいに現れた美青年に驚き声を上げる。
美青年の正体は、元は牛のような化け物だった大魔神るほーだ。
「どうせ相変わらず読者がいない、点数がつかないなどど嘆いてるのだろう?」
「くそ。よくわかるな」
俺は図星を指され、嫌な気分でるほーを睨みつける。
「当たり前だ。わしはお前の創造物だからな。しかも負の感情からできている」
るほーはそのうざったい金髪の前髪を振り払い、ふふんと笑った。
「しかし勢いで、書いた話を消すのはやめろ。体が消える思いはもうたくさんだ」
「うん……」
俺はうなずいたが、内心はもう小説を全部消しちまって、書く事をやめるかどうか悩んでいた。
小説を書き始めたのは、いつからだったから覚えていない。気がつくと頭の中でキャラを動かして、空想にふけることを楽しんでいた。それを文字にしていったのはいつだっただろうか?
俺はキャラの動きを追い、文字を書き続けた。しかし、ある程度書くと、キャラが動かなくなる。そしていつもそこでやめてしまっていた。
そんなことをずっと繰り返していて、数ヶ月前、変な夢をみた。
夢の閃きをうけ、書き上げた話が『勇者ライアン』だ。書いたら誰かに見せたいとオンラインの小説投稿サイトに載せた。
しかし俺の期待を裏切り、読んでくれたのはわずか。しかも読みきってくれた人はいるのだろうというぐらいのアクセス数だった。
でもライアンや、るほーを書くのが楽しくて、続きを書き始めた。しかし、結局読者も点数もつかず、書くのをまたやめてしまった。
すると奴の夢をみた。大魔神るほーだ。
なんだか軽く説教されたがサイトに載せた『1』があまりにも読者もいなく、点数も0だったので消した。すると翌日の夢で、るほーの奴が半分消えた姿で現れやがった。
だから俺は必死に書き上げた。奴がこのまま消えるのをとめたかった。
だが、『2』をサイトに更新した後も、読者数も点数も増えることはなかった。
なんでだ?
あんないい話なのに!
そしてある日の夜、俺は夢をみた。
るほーはその端正な顔をゆがめて俺を見ていた。
「『3』は書かないのか?」
「書かない。もしかしたらもう書かないかもしれない」
「どうしてだ?」
「だって、誰も読まないんだぜ?」
「誰も?アクセス数は0ではないぞ。もしかしたら誰かが読んでくれてるかもしれないじゃないか」
「単に興味をもってクリックしただけだろう?」
「ふん。ま、その可能性もあるな。『3』の中で、わしが元の凛々しい姿に戻るなどとしてくれたら、嬉しいのだが、その様子じゃ無理だな」
「ごめん」
凛々しいって今の姿のほうがよっぽど凛々しいけど?
俺はそう思いながらもとりあえず謝る。
「わしはこの姿が嫌いだ。おかげでつまらぬ人生を送っている。が、消されないだけましか」
るほーは少し寂しげに笑うとマントを翻し、俺に背を向ける。
「るほー!また、会おうな」
「……」
俺の言葉に、るほーは振り返ることも答えることもせず、そのまま消えてしまった。
それから俺がるほーに会うことはなかった。
数年がすぎ、俺は社会人になった。しがないサラリーマンだ。
小説を書くことなど忘すれてしまった。
ある日、俺は自分の好きな小説家のプロフィールを見て驚いた。そこには俺が昔小説を載せたサイトのことが書かれていた。
俺はなんだか胸が熱くなり、そのサイトを検索した。
そしてURLをクリックする。
数年前とは少しデザインが変わったが、レイアウトは同じだった。
俺は大きく息を吐くと、ログインをクリックする。
「たしか、『ゆうま』だったかな。パスワードは……」
俺は震える指先でキーボードを叩いていく。もう何年もログインしていなかった。
管理画面が現れ、俺はそこに『勇者ライアン』と『勇者ライアン2-大魔神るほーの大逆襲―』の表示を見た。
「まだ残ってたんだ。でも感想とはやっぱりないんだ」
記録が残っていた喜びはあったが、同時に感想がないことにがっかりした。でも俺は気を取り直して、『勇者ライアン』の文字をクリックする。
アクセス数を見ると200だった。
「何年前に書いたんだっけ?ああ、2006年か」
俺は最終掲載日を見て、正確な日にちを知る。
「5年で200って、すごいなあ」
あまりのアクセス数の少なさに俺は心底がっかりする。
「どれどれ、読んでみようか」
俺はどんな話を書いていたんだっけと『小説を読む』をクリックする。
*********
緑豊かな地で一人の子供が生まれた。
子供はライアンと名づけられ、農作を営む両親の元ですくすく育った。
しかし、16歳になったときに、少年に転機が訪れた。
*********
そういうくだりで始まった『勇者ライアン』ははっきりいって、読みづらかった。表現の稚拙さ、誤字脱字……
あげれば切りがないほど欠点だらけの小説だった。
しかし俺は読みながら、高校生の時に感じたことや、るほーと夢で話したことなどを思い出した。
『1』を読み終わり、『2』を読み始めたあたりから、俺の心にまた書きたいという気持ちが生まれてきた。
そして1時間後、俺はワードを開いた。
『勇者ライアン3―失われた勇者―』
新規文書にそう書き込み、俺はほくそ笑む。
『書く気になったのか。わしを元の凛々しい姿に戻すのだ』
脳裏でそんなるほーの声が聞こえ、俺はキーボートに指を乗せる。
「さあ、書くか」
俺は知ってる。
なぜ俺の小説が読まれないか。
文章の稚拙さ、ストーリーの展開、キャラの新しさなど、欠点をあげると切りがない。
でも俺は物語を書くのが好きだ。
頭の中の空想を文字にして追うのが好きだ。
だから俺は書き続ける。
そしてキャラたちと共に夢を見続ける。
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