ドリームランド(ご主人様/作者編)
「ああ、もうだめだ。俺には無理」
そう言って俺は天井を仰ぐ。
ありきたりな話だった。
でも書きたくなって書き始めた。
勇者ライアンと大魔神るほーの最後の戦いを書き始め、急にやる気がなくなった。
それまでの、普通の少年であったライアンが運命を知り、賢者に弟子入りするところや、仲間の魔法使いなどと出会うところは書いてて面白かった。
一番楽しかったのは、仲間と共に魔人達と戦ったところだ。
でも、今の俺は、すっかりやる気をなくしていた。
これで何度目だろう。
話を中途半端に投げ出したのは。
気がつけば、デスクトップには数個の話が置き去りにしてある。
『桃色天使ルル』
そんな名前のファイルを発見し、クリックしてみる。
――
俺がある日テレビを見ていると、急にテレビが輝く始めた。
そして部屋中が光で満ち溢れ、俺は目を開けられなくなる。
光をやみ、ゆっくりと目を開けるとそこにいたのをピンクの髪をした可愛らしい天使だった。
-中略―
「香(カオル)。私はあなたの側にずっといたいの。でも…」
「ルル、お願いだ。ずっと俺の側に」
――
文章はそこで終わっていた。
つまんねー、しかも誤字があるじゃねーか。
最悪だ。
俺は迷わずその文章を閉じると、ゴミ箱に入れた。
そしてポインターを持っていき、中身を空にする。
なんだかすかっとした。
俺はその爽快感を忘れられなくなり、次々とワードファイルを消していく。
「マモル~。夕飯できたわよ!」
ドアの外から母の声がそう聞こえ、俺の作業は中断させられた。
気がつくとデスクトップを飾るワードのアイコンは半分に減っていた。
続きは夕飯後にするか。
俺はそう決めると、夕飯を取るため部屋を出た。
夕飯後、母と父に掴まり、進路の話をされる。
おかげで気分が悪くなり、部屋に戻った時はかなり疲れていた。
「寝よ」
俺はパソコンの電源を切ると、そのままベッドに入る。睡魔は直ぐに訪れ、俺は眠りに落ちた。
☆
「まじで?!」
数日後、俺は起動しなくなったパソコンを目の前に固まった。
突然だった。
俺の相棒が~~。
「母さん。修理に出してよ。俺の大事なデータがまだ中に入ったままなんだ」
「どうせ、学校に関係ないんでしょ?いい機会だから、この際パソコンなしでもいいんじゃないの?」
「うげ。かんべんしてよ。俺、パソコンなしじゃ生きていけない!!」
「……そうね、今度の中間テストで五十位以内に入ったらパソコンを修理に出してあげるわ。もし入らなかったらそのまま捨てる」
「げぇ!母さん、俺の今の順位知ってんの?百位にも入るか、入んないか、だぜ?無理無理~」
「じゃ、パソコンは諦めるのね」
げぇえええ。
俺はブルドックのように顔をくしゃくしゃにしたが、選択肢はなく、俺のパソコンなしの生活は始めった。
信じられないくらい暇だった。
しょうがないので、携帯電話を使い、遊んでみたがパソコンに比べるといまいちで苛々して毎日を過ごした。
中間テストが近くなり、俺は仕方なく勉強した。
他にすることがなかったし、パソコンを再び復活させたかった。
そうして、中間テストが終わり結果がでた。
「五十五位?!」
あー、あと少しだったのに。
しかし、母さんは頑張ったわねといって、パソコンを修理に出してくれた。
そして一週間後、パソコンが戻ってきた。
嬉しいことにデータはそのまま残っていた。
俺は久々に再会した相棒に語りかけながら、早速ネットにつなげる。
「マモル?!まだ起きてるの?寝なさいよ!」
部屋の明かりがドアの下から漏れていたのか、母の怒鳴り声がして俺は仕方なく相棒に別れを告げる。
その夜、俺は夢を見た。
「ライアン」
「アリア!」
夢の中で俺は勇者ライアンだった。
ライアンは緑色の髪に真っ赤な瞳のアリア姫と抱き合っていた。
かわいいな。
ふわふわした緑色の髪から、程良い甘い香りがして、俺はいい気分になっていた。
たしか、このアリア姫。もとの設定は小粋な踊り子だったかなあ。
それがお姫様……か。
ギャップがあっていいかもな。
そう思って目を開けると部屋が妙に明るかった。
光の発信源はパソコンで、画面が俺を呼ぶように光っていた。
どうやら寝る前に間違って再起動をクリックしたようだ。
ベッドから体を起して、机に向かう。
そして再度消そうと思った時、俺はなんとなく、デスクトップのアイコンを見渡した。
すると『勇者ライアン』という名前のワードファイルを見つけた。俺は導かれるようにクリックする。
大魔神るほーに戦いを挑むライアンの場面で話が終わっていた。
俺は椅子に座し、キーボードを叩き始める。
初めから読みなおし、そういえばこういうキャラいたよなと過去に消した話の魔物や町人などを思いだし、登場させていく。
「出来た」
そうして出来上がったのは勇者ライアンと仲間たちの壮大な冒険物語だった。
もちろんラストはアリア姫とのキスシーンだったが。
『ありがとう……』
物語を書き終え充実感で心が踊る俺に、そんな声が聞こえた。
それはライアンの声のように聞こえた。
窓から見える空は藍色になっていた。
あと一時間くらいしたら日が昇りそうだった。
やばい。
俺は慌ててベッドにもぐりこむ。
先ほどありがとうなどと聞こえたのはきっと眠たい脳が作り出した幻聴に違いない。
俺はそう思い目を閉じた。
その日の夢はやっぱり「勇者ライアン」で、俺はライアンとなりアリア姫とフリーランド王国を治めていた。
なんだかほくほくと幸せになる夢だった。
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