ドリームランド ~書き続けるための癒しの書~

ありま氷炎

ドリームランド(キャラ編)

 はっ!


ここは?


 目が覚めて見渡すと桃色の世界に、俺はいた。


 さっき俺は大魔神るほーと戦っていたのに!


 きょろきょろと、状況が把握できずに左右を見渡していると声がかかった。


「あらら、来ちゃったのね、新人さん。もしご主人様があきらめなければ、あなたはいつか元の世界にもどれるわよ」

 

 現れたのは緑色の髪の少女で、その大きな赤い瞳をきらきらと輝かせている。


「ここは?」


 この子に頼るしかない俺はそう尋ねる。


「ここは、ドリームランド。物語を書くのが大好きなご主人様が作り出したキャラが暮らす場所よ」


「?」


 キャラ? なんだよ。それ。


「わからないのね。そうよね。私も来たときはわからなかったわ」


 首を捻る俺にふふふと少女は笑う。



「ルル! 助けてくれ!!」


 ふいに情けない男の悲鳴が聞こえ、俺は振り向いた。


「香!」


 ピンクの可愛らしい天使が、何やら奇妙な服を着た少年に手を伸ばしているのが見える。

 手が重り合い、その瞬間、二人の姿が消えた。


「き、消えた?!」

「……かわいそうに。ご主人様が物語を消してしまったのね」

「消す?」

「そう、私達はご主人様が作ったキャラクターなの。ご主人様が物語を消してしまえば消滅するわ」


 緑色の髪の少女は親切だった。混乱している俺に色々説明し、ドリームランドを案内してくれた。

 住民はみな奇抜なやつらばかりで、時たま魔物がいたりと油断ができない場所でもあった。


「なあ。ご主人様があきらめなければ戻れるってどういう意味だ?」


 この世界にきて二日後、俺は勇気を出して聞いてみた。


「それはね。ご主人様が最後まで物語を書き終わったときなの。でもこの世界に迷いこんだ時点でご主人様は物語を放棄してるから、確率は低いけど」



「助けてくれ!!」


 ほぼ日常になった叫び声が聞こえ、背の高い顔のいい勇者が消える。

 そしてその周りにいた魔物も一緒に消えた。


 手ごわそうな魔物だったからほっとしたが、同時になんだか切なくなった。


 こんなに簡単に消えるんだ。


「なあ、あんたはこの世界に来てどれくらいなんだ?」

「あ、私?三ヶ月よ。一年とか二年とか住んでる人もいるからまだ若手かなあ」


 若手って……


 ある日、俺の体に異変が起きた。

 ドリームランドに来てから一ヶ月が過ぎたところだった。


 とうとう来たのか……

 消される日か……


 何十匹、何十個のキャラが消えるのを見てきた。

 だから不思議と怖さはなかった。


 ただ、彼女と別れるのが辛かった。


「なあ! 消える前に君の名を!」 


 俺は消え行く体でそう叫んだ。

 しかし、彼女は微笑むだけで何も答えなかった。


「このくそやろう!」


 俺はそう言って、大魔神るほーに切りかかっていた。

 ドリームランドに迷い込んだ時と同じ場面だった。


 ただ違ったのは遠くにお姫様が見えたことだ。

 緑色の髪だった。


 そしてその瞳は真っ赤!


「これでも食らえ!」


 俺は飛び上がり、剣を振り降ろす。

 大魔神るほーが俺の剣で真っ二つに割れた。


「うおおおおお!!」


 るほーは断末魔の叫びを上げると、煙となって消えた。


「ライアン!」


 緑色の髪のお姫様はそう言って俺に抱きつく。

 お姫様はあの彼女だった。


「アリア姫!」


 俺は迷いなく、彼女をそう呼んだ。


 そうして俺は彼女とハッピーエンドにたどり着く。

 気が付けば、あのドリームランドで見たような生き物がいくつかこの世界に来ているのがわかった。



 そうか、あの世界は一人の作者が作っていたのか。


 俺はそんなことを思ったが、俺の記憶はぼんやりとしていき、それからアリアとドリームランドの話をすることはなかった。


 それから俺とアリアは、フリーランド王国で立派な王と王妃として末長らく仲良く暮らした。




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