その日まで。

「え?ルナが?」

「そう、風邪をひいたらしいの」

村の噂の、ルナが風邪をひいたというのはどうやら本当だったらしい。

星の民も風邪をひくものなんだな、と変なところに関心を持ちながら、ルナのお見舞いに行った。

「ルナー、大丈夫?」

「大丈夫。熱は下がったから」

そういうルナの身体はなんだか細く見えた。いくら熱が下がったとはいえ、つらそうにしている時に来ちゃったなと後悔した。ルナは、そんなボクの感情を読み取ったのか、首を振った。

「本当に無理してないから大丈夫だってばー。だって星の日がもうすぐ来るんだよ?アウグーリオ流星群も来るんだよ?おちおち寝てらんないじゃない!」

「確かにね、でも本当に無理しないでよ?腕が少し細く見えるんだけど?」

とボクが言うと、ルナは少し腕を見てため息混じりに、

「食欲あんまり無かったからねー。そのせいかもしれない。でも流星群はぜっったいに見たいから治すよ?」

と言った。

少しだけ嫌な方にそれていたボクの考えは杞憂に終わって、少しほっとした。



「あとどれくらいで流星群が来るかなー、待ちきれないよね!」「お母さんに会えるかな・・・?」「あたしはお兄ちゃんに会いたいなー!」


星の日に近づくにつれて、村の中は流星群の話で埋め尽くされていった。徐々に飾りも準備されていき、集落の至る所に星型のカンテラが飾られていた。

ボクは、ここ数年間いろんな星を眺めていて、気になることがあった。

「ベテルギウス、最近すごく明るく見えるね」

「そう?」

ルナは最近めっきり口数が減って、笑顔を見なくなった。白いワンピースからのぞく足や腕は、もう折れそうなくらい細かった。


その日の夜、めずらしくルナの方から星を見ようと誘ってきた。

「あっ、天の川まで見える」

「ベガあった!」

といつものように自分たちの星を探したあと、空がいつもより明るく感じた。違和感を覚えたのか、ルナも空を見上げた。

その直後、ルナは目を閉じた。

涙が一筋、ルナの頬を伝った気がした。

「え・・・」

ボクは衝撃を受けた。


ベテルギウスが、形を失っていた。


刻一刻と形を変え、周辺の星座の形を変えていく。

「あーあ・・・、終焉おわっちゃった。流れ星にお願いしたのに・・・」

ルナは諦めたように泣きながら笑っていた。

「ルナ、どういうことだよ!?」

「今回の終焉星はね、私。ここ1000年のあいだに、いつ死んでもおかしくなかった。それが今回のタイミングだったの。せっかくのアウグーリオ流星群だったのにね・・・」

そう言っている間にも、ルナの身体は透き通っていく。

「待ってよ!ボク、まだ何も言って・・・」

ルナはボクの肩に手を置いて、首を振った。その間にもルナの頬にはとめどなく涙が伝っていく。

「いい、何も言わないで。悲しくなるから。もしも逢えなかったら・・・」

「そんなことない!」

自分でも驚くくらい大きな声が出た。

「めぐり星を信じてルナも生きてきたでしょ・・・。信じ続けなきゃ。ボクは信じる。ルナにも、母さんにも、父さんにも絶対に会えるって。だから、どこにいても・・・何億光年離れてても分かるように、一際輝く流れ星になって。ボクは絶対にルナを探す」

「ルスくん・・・。分かった、約束する。絶対に私を見つけて・・・。だ・・・」

「ルナーーーーーーっ!!!」

最後まで言葉を言い終えないうちに、ルナの身体は消えてしまった。



あとに残ったのは、むせび泣くボクの声と満点の星空だけだった。

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