モジカ・マジカ
モジカ・マジカ(上)
(注:ここまでの作品と比べてかなり異色です)
成人男性(猫付)を拾った。
どうせ拾うなら他のがよかったけど、俺は成人男性を拾った。マンションのドアの前で膝を抱えて座る、フィリピンかマレーシアか、とにかくそのあたりに住んでそうな男が流暢な日本語でこう名乗らなければ、家の中になんて絶対に入れなかった。
アルル・ペブルビク=ララカウァラ
そういうわけで自作の登場人物を自宅に匿っている。どーもこんにちは、ホタテです。
一つ目の異変。俺が趣味で投稿している小説サイト「ヨミカキ」がダウンした。その時ちょうど書いてたコラボ作品が二つあって、一つ目は形にできたんだ。二つ目は途中まで書いて、よし保存と思ったらサーバーダウンでがっくりだよ。
それから二週間そのまま。
「ヨミカキ」に続いて「小説家になれ!」も「オール☆スタ」も、投稿サイトという投稿サイトがダウンしてるんでトゥイッターが阿鼻叫喚だ。
二つ目が、同じ日に拾った
うん、我ながらヨゾラかわいいね。うちはペット禁止だけど、にゃーって鳴かないからバレないしね。
「わたしはお腹がすいていますよ」
って、しゃべり方が想定外だったけど。あと、黒くない。深い紫色してる。そんな設定にした覚えないなぁ。
アルルくんとも結構うまくやってる。ただ、
あとアルルくん、記憶がほとんど欠落してた。
「俺には……こいつだけだ……」
ってヨゾラの背中撫でてるの。ヨゾラはヨゾラで、
「わたしがずっとそばにいますよ」
って、はにかんだりして。お前らいったい何があったんだ。
二十一歳の若者を部屋に閉じ込めておくのもかわいそうだ、俺が生んだわけだしなと思ってちょくちょく連れ出したんだけど、いちばん喜んだのが荒川。
「ここなら……空を、飛んでも……?」
って聞くから深夜にもっかい連れてったら、向こう岸で塩切れおこして動けなくなりやがんの。橋を探して全力ダッシュだよ。こっちのアルルくん、いちばん使い勝手の悪い魔法だけ持ってるのな。
ちなみに俺は、働いてた
最後、三つ目の異変がさっきドアチャイムを鳴らした。今日あたり来るんじゃないかと思ってたんだよね。
ドアをそっと開けると果たして。
土下座したくなるような美女がそこにいらっしゃいましたよ。やらしい意味じゃなくて、もうなんだろう、出会った瞬間にスパスパスパって、体を輪切りにされるみたいな美女。
大学生でしょ? うん、知ってる。
艶やかな黒髪に、すっ、と通った鼻筋。しなやかな手に扇。紫を基調にしてるのに軽やかで涼しげな生地の、ええっと、いま流行ってるアレだよ、アレアレ。
流行り物も着るのか、むしろ親しみがわくなぁ。
で、その美女の一言目がさ
「冗談ですわよね」
だったのよ。
俺、まだ何も言ってません
「申し遅れました。
「ホタテでお願いします」
我が家に女子大生が! と喜ぶには混み合ってる我が家。1DKにユカリさんと、男二人と猫一匹だもんね。ユカリさんもよく上がってくれたもんだ。
「初めまして、ヨゾラと申します。こちらは連れ合いのアルル。お見知りおきください」
って丁寧な挨拶をする猫をみて、ユカリさんの表情がまた厳しくなったよ。一番いい席(いつも使ってる座椅子ソファ)を勧めて、とりあえずお茶を沸かしてる間の出来事ね。
「ホタテさん、あなた、ご存じなのではなくって? これから何が起こるのか」
「まず、けちょんけちょんに言われるんですよね?」
「今回、それは後回し。作家にとって最悪の妖怪がこれからどこに出るのか、そちらの問題のほうが差し迫っていますわ」
へへへ、さすがは東の駄作バスターさんだ。でも、俺も場所と時間までしかわからないのだよね。
だって、そこから先はまだ書いてなかったんだから。
「秋葉原ですよ。休日に歩行者天国になる、あの広い道路です」
急須に茶葉を入れたけど、これ、無駄になるだろうなぁ。
「では、さっそく行きますわよ」
ほらね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます