キミだけじゃないんだぜ?

出典: ピファのPRその二https://kakuyomu.jp/works/1177354054885582819/episodes/1177354054885738823


「ぶぁっくしょい!!」

 河と火薬のエレスク・ルーに降り立つと、ヨゾラは景気よくくしゃみをした。

「いおうめ……」

 河伝いに流れてくるこのツンと来るにおいがどうしても苦手なのだ。

 道沿いの草には白く小さな花が咲き、渡り鳥も戻ってきて、エレスク・ルーは前に来たときより賑やかになっていた。

 一方、アルルは膝に手をついてぜいぜいと荒い息をつき、

「おや……おや……」

 と何かを言おうとしている。

「だいじょうぶ?」

 コートの胸元からヨゾラが問いかけると、アルルはポケットをごそごそして塩の欠片を口に含んだ。

 魔法の使いすぎで、塩が切れかけていたらしい。

「おや、お役所のあたりに、人だかりが見えた。役所だし、選挙と関係あるかも」

「なるほー。じゃ、行ってみよう!」

 ヨゾラがそう言うと

「なるほーじゃなくて、『なるほど』な」

 すかさず訂正を入れて歩き出した。さすがに今日はもう飛ばないらしい。



 木曜日エルヴァの朝っぱらに人が集まっているのは「ピファの見送りのためす」と舟屋のギデが教えてくれた。

 しかし、どこにもピファの姿は見えない。辺りを見回しても、上を見る人ばかり。

 上?

「みなさん!」

 ヨゾラが見上げるのと、声が降ってくるのが同時だった。ピファが、お役所屋上の大砲にすっぽりと収まり、肩から上を出して手を振っている。

 あれって、正午の大砲じゃなかったっけ? とヨゾラは思い出した。

「行ってきます! きっと立派なアイドルになります!」

 その言葉に、役所前の群衆が勝ち鬨どきよろしく、一斉に盛り上がった。涙ながらに拝むお婆さんまでいる。そんな中で

「いやいやいや、大砲で何やってんだ?」

 とアルルが真っ当な疑問を挟んだ。

 ピファが大砲の中に引っ込む。傍らに魔法使いのドゥトーと、けい長がいるのが見えた。

「では皆々様、秒読みを!」

 ドゥトーの声に群衆が呼応する。


 さーん! にー! いーち!


「ちょっとまて! なにを──」


 どがん!


「ピファぁあーっ!?」

 大砲が銀の粉を噴き、アルルただ一人が悲鳴をあげたその時、ヨゾラの視界に文字の群れが閃いた。

「アルル、追いかけよう!」

「なんだって!? どうやって!?」

 うろたえるアルルに向かい、ヨゾラは、にっ、と牙を剥き出して笑う。

本編いつもと違うのは、キミだけじゃないんだぜ?」

 その緑色の瞳が、紅い光を宿す。



 代理魔法 実行



 ヨゾラが獣の咆哮を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る