主役の二人はわかってない

出典: ピファのPRその一

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885582819/episodes/1177354054885738817



「ねぇアルル」

 黒猫みたいなものが訊く。

「どうしたヨゾラ」

 魔法使いの青年が聞く。


「アイドルってなに?」

「なんだよ突然」

 ある夜、野営中の出来事だ。アルルは干し肉を茹でる鍋に、お茶の葉を摘まんで投げ込んだところだった。

 その隣からヨゾラは質問を繰り返す。

「ア、イ、ド、ル、っ、て、な、に?」

 なんでそんな事を訊くのか、とアルルは思うが、知りたい事ができるとヨゾラはしつこい。


 しかし……アイドル?


「……東方諸国語リンガデレステかなぁ。だとしたら『偶像』って意味だよ。神様の形を想像して作った、木とか銅の像のことだ」

「ふーん。ピファちゃん、やるんだって」

「何を?」

「アイドルを」

偶像アイドルを?」


 ぱちん、と薪が爆ぜた。


「うん。アイドルそうせんきょに出るって。そうせんきょってなに?」

「選挙ってのは、偉い人をみんなで選ぶ仕組みだけど……偶像アイドル総選挙? を、応援……?」

 アルルは額に手を当て、目を閉じた。「平民にも選挙権を!」と暴動が起きた話を聞いたが、そんな殺伐とした所にピファちゃんが?

 その前に、ピファちゃんが偶像をやるって何だ? 偶像から一番偉いのを選ぶってどういうことだ? そもそも偉い偶像ってなんだそれ?

 不可解に過ぎる。

「それ、ドゥトーさんは何か言ってないのか?」

「がんばれって」

 何をどう頑張るんだ!?

 ぐらぐらぐら、と鍋が煮立つ音も耳に入らない。

「ヨゾラ」

 アルルはまっすぐ黒猫の緑の瞳を覗き込んだ。

「今からエレスク・ルーに向かう」

 そう言うと、ヨゾラの瞳が期待に光った。

「ピファちゃんとこ行くの?」

「そうだ、何が起きてるのか確かめに行く。今から『翼』の魔法で湾を越えれば、朝までには着く」

 アルルは立ち上がり、コートの前を閉じて帯を締めた。

「そんなに長く飛んでいられたっけ?」

「大丈夫だ。いつもは出来ない事でも、今ならできる、そんな気がするんだ」

「自信たっぷりね」

「そうだな、なんだか──」

 ヨゾラを抱き上げ、コートの中にすとんと収めると、アルルは言葉を続ける。

本編いつもと世界が違って感じる」

 杖を両手でしっかりと握り、魔力を吸って魔法フィジコを発動する。

 ぐん、という手応え。

 アルルは杖ごと自分を夜空へ投げ上げ、宙空で「翼」を開いた。風を打って加速をつける。

「行くぞヨゾラ!」

「アルル、荷物! 火! ごはん!」

「大丈夫だ! 世界が違うんだ!」

「なんかそれズルくない!?」

 夜空に声だけを残して、魔法使いと黒猫が星空の向こうへと消えて行った。

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