起立性調節障害の娘と息子と向き合うために会社を辞めようと思います
更に酷く
次女の具合が決して良くなってきたというわけでもなかったのは、冬の時期ということもあったのかもしれません。気圧に左右される上、天気も悪く、普通の人だって布団から出たくないような季節でした。
それでもまだ、長男よりはマシだったように思います。
診断が下ってからというもの、長男の具合は更に悪くなっていきました。
朝から頭痛やめまいを訴え、それでも学校に行きたくて苦しそうにしていました。
漢方薬も処方されていましたが、苦いからと飲み忘れるので何度も注意しました。
「飲まないと良くならないよ」
「学校行きたいんでしょ」
いろいろと声がけを工夫しても、朝は特に、一人で起き上がるような体力もないのか、全身に力が入らずベッドから自力で降りることができなくなっていきます。
私は毎朝のように職場に連絡し、時間休を貰いました。
まだまだ手のかかる次男も私が幼稚園まで連れて行かねばなりません。兄がぐったりしているのを横目で見ながらご飯を食べ、渋々一人の時間を過ごしていた次男には、一体どのように見えていたのでしょうか。
受験が終わり、進学先も決まった次女にまで手をかける余裕はありません。声をかけ、後は頑張れと放置して、とにかく今一番大変な長男にすべてを尽くしました。
夫は自分のことだけやって、早々に長女とともに家を出てしまうので、そこから先は私が何もかも一人でやらなければなりません。
毎朝が地獄でした。
長男は次女より体重があり、男の子ということもあってとにかく重いのです。成長期に入って、少しずつ身長も伸びていましたし、足も大きくなり、食欲も増していた頃でした。
ベッドから引っ張って背負い、よろよろと階段を降り、茶の間のこたつの付近に寝かせると、それだけでもう、一日分の体力を使い果たしたような疲労感がありました。そこから、声をかけて薬を飲ませ、どうにか朝食をあげなければと、パンやおにぎりを少しずつ与えたり、自力で着替えられなければ着替えさせたりと、まるで次女の一番症状が酷かった時をそのまま再現したような状態です。
トイレに立つのもままならず、尿意を訴えてきたら負ぶって数メートル先のトイレまで行き、便座に下ろして、用が済んだら立ち上がらせ、トイレの隣にある洗面所で手を洗わせるのですが、たったそれだけの動作も出来ず、洗面台の上に長男の手だけ引っ張って、私が手を洗わせてやったこともありました。
仕事は遅番でしたが、それにも間に合わないという判断を8時30分より前にしなければならず、休むのか、後で仕事に行けるのか、限界の頭で考えるのです。
学校からは一人で登下校させては困ると念を押されていたため、私が連れて行く、迎えに行くほかなく、そのことを夫に訴えると、
「じゃあ、休ませるしかないんじゃないか」
と無責任な返事ばかりが返ってきました。
夫は夫で忙しい時期らしく、自分の代わりはいないからと一点張りで、結局はすべて私にしわ寄せが来ました。
毎日、職場に行くか行かないかの連絡をしなければならいというだけで胸が苦しくなり、数分刻みで自分のやるべきことを確認していないと不安になるほどでした。
そんなんでしたから、仕事にだって身が入るわけもなく、次第に周囲の目は冷たくなっていきます。
「仕事に来てるんだから、家庭のことは忘れなさい」
当然のように言われましたけれど、一人でトイレにも行けない状況の息子を置きっぱなしにして仕事に行くのはそれだけで苦しくて、ああ、私は何のために仕事に来ているんだろう、こんなことをしていていいのか、近くで励ましてやらなければいけないんじゃないのかと、一つ一つの言葉がグサグサと胸に刺さるのです。
更に、そうやって毎日苦しみながらどうにか職場に行ったところで、
「数字はどうなってるの」
「○○まで必達だから」
「時間がないというのは言い訳。みんなも事情がある、あなただけではない」
と、当然のように無慈悲な言葉だけが向けられました。休憩室で昼休みに愚痴っていたらそれさえ、
「ノルマが達成できないことを人前で愚痴るのは止めなさい。あなたが全員の士気を下げている」
と釘を刺され、結局私の気持ちはどこにも向けることが出来なくなっていきました。
職場では私が休んでいた内に何か大きな事件が起きていたらしく、私はそれを知りませんでしたし、関係者は皆口をつぐんでいる状態でした。丁度この頃、それが明るみに出て、その問題の打開策として研修や会議が追加されている異常事態だったのです。
とにかく、職場全体がピリピリとしている中、自分は自分で限界だし、子どもは子どもで大変なことになっているし、数字は全然作れない、仕事でもミスが多くなる、家でも心が安まらない、悲惨としかいいようがありませんでした。
長男は土日も具合が芳しくなく、そのまま2月5日火曜日、総合病院で診察、脳波の検査を受けました。以前受けたMRIでは異常がないことがわかりましたが、この脳波の検査でてんかんの兆候が見られなければ、おそらく起立性低血圧で決まりだろうと、そういうことでした。
診察は午後からでしたが、長男はぼうっとして焦点が定まらぬ様子で、先生は始終長男の表情を気にしていました。
「生気がないな」
先生の言葉には同意しました。
「どうしよう。このままここで診る? お姉ちゃんも起立性低血圧だっけ?」
「はい。今は県立病院の心療内科で診察をお願いしてますから、出来ればそちらで一緒に診てもらえると助かるんですけど」
「うん、そうだね。出来るだけ早く、心療内科で診てもらった方がいい。これは、小児科では無理だな。何か困ってることとか、悩んでることとか、心当たりないの?」
長男は首をかしげ、
「ええ……と、学校に行けないこと?」
イマイチはっきりしないような、微妙な返事をしました。
紹介状を書いていただき、県立病院へと連絡していただくようお願いしました。通常であれば、県立病院へとつながるまで半年。予約で常時いっぱいなため、どうしても取り次ぎに時間がかかるのです。次女の時は幸い、かかりつけの心療内科の休院ということで早めに対処してもらえたのでした。
「県立病院へ繋がるまでは引き続きこちらで診るから。薬はしっかり飲んで。ゲームはしすぎないように、一日一時間まで。ブルーライトが原因かもしれないから、注意して」
先生は話している間も、長男の気の抜けたような表情をずっと気にしていました。
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