不調の正体

 合格発表で気が抜けたのか、次女はしばらく午後付近から学校へ行くことが多くなりました。

 それでも、学校に行かなければと必死だったのは、たとえ合格したとしても、出席日数がそこから極端に減ってしまうと、せっかく受かったのに高校に行けなくなるのではないかという不安感からでした。

 他の人より痩せている次女は、高校の制服の採寸ではSサイズ。身長はあるのにひょろひょろとしていて、Mサイズでもガバガバでした。それでも、新しい制服を見て少しはやる気が出ていたらしく、本人曰く「頑張って起きて学校に行っている」状態だったようです。


 一方で長男の方は、具合が悪い状態がずっと続いていて、土日も家で唸りながら横になっていることが多く、とても辛そうに見えました。


 1月28日月曜日、朝から学校へ行かなければと二階からおんぶして茶の間まで連れてきて寝かせていると、長男はまだ眠たい次男や三女に頭をまた蹴飛ばされて、腹痛と頭痛を訴えてきました。その頭痛があまりにも激しかったため、頓服薬を飲ませました。

 私は職場に遅れる連絡をして、長男の看病にあたりました。

「夜中2時とか4時頃まで眠れなかった」

 長男には不眠の症状が出ていました。頭が痛くて眠れない。やっと眠れたかと思うと朝が来る。それもあって、朝起きづらく、頭痛も止まないようだったのです。

 頓服は2時間以上空けて1日2回までと言われていました。それを知っていた長男は、

「ねぇ、次に薬飲めるの何時?」

「あれから何分経った?」

 としきりに訊いてきました。

 やたらと薬を飲ませるのも不安だったのですが、本人が苦しがるので、

「もうちょっと、もう少し経ってから」

 と励まし続けます。

 2回目の頓服を飲んで落ち着いた頃、

「学校行きたい」

 と言うので、小学校に連絡の上、学校まで送っていきました。

 テストの日で、どうしてもうけなければという使命感もあったようです。

「帰り無理だったら先生に言って。どうにかして迎えに行くから」

 私はそういって長男を送り出しました。


 途中から仕事に行ったその日、取り扱いは散々なものでした。

 必死に頑張って手続きしたものが、結局後で大きなミスを生むこととなり、大変なことになりました。

 頭の中がいっぱいいっぱいで、まともな思考回路ではありません。

 誰かに助けを呼ぼうにも、それを阻止するような雰囲気があり、私は自分一人で全部抱え込んでしまっていたのです。

 一番の悩みの種は、長男のこと。ただの頭痛が一ヶ月近く続くのかどうか。本当に片頭痛なのか。一応薬が効いているときもあるから、片頭痛という診断にはなっているものの、決定的な症状もなく、単に苦しみ続けるだけの長男を見ていると、何がどうしてこうなったのかと、頭はぐるぐるするだけで、出口のない迷路の中で右往左往しているような気分でした。


 ぐったりして帰宅すると、長男はあっけらかんとしていましたが、そこから出てきたのは、恐ろしい言葉でした。

「帰り、雪の中で倒れた」

 小学校からの帰り道、友達と途中までは一緒なのですが、家まであと500メートルくらいからは一人で帰ることになります。どうやら友達と別れた後、長男は雪の中、意識を失って倒れてしまったそうなのです。

 幸い、倒れたのは歩道で、雪がクッションとなったのか、怪我もなかったようです。

 しかし、それだけではありません。

「テスト中も意識が飛んで、気がついたらあと5分だった。全然解けなかった」

 どういうことだと、不安になります。

 しかもその夜、入浴中も意識が飛んだらしく、一緒に入っていた三女が、必死に揺さぶり起こしたというのです。

 これはとんでもないことになったと、ゾッとしました。


 1月29日火曜日、次女の診察日。休みを取っていた私は、朝から次女を起こし、どうにか連れて行きました。

 帰宅すると、具合が悪く休んでいた長男が熱を訴え、学童に行っていた三女も熱っぽいと呼び出しがかかりました。急いで小児科へ行き、インフルエンザの検査をしましたが、とりあえず陰性。しかも、三女のクラスは急遽翌日まで学級閉鎖になってしまいます。

 小学校からも連絡があり、

「長男君、具合どうですか。薬、合っていないのでは。早めに受診した方が」

 担任の先生も、養護の先生も心配してくださいました。


 1月30日水曜日は、幸い、小学校の授業参観で夫に休みを取って貰っていました。学級閉鎖中の三女のクラスは見に行く必要がありませんし、長男の具合も悪ければ、行く必要もない、ある意味フリーの日になりました。

 午前2時頃から長男の頭痛は続いていて、朝方頓服。熱はありません。

 学級閉鎖中の三女を具合が悪く学校を休むことにした次女に任せて、夫には長男を総合病院へと連れて行くようにお願いしました。

 昼頃、以下のようなLINEが夫から送られてきました。


≪シェロンテストを敢行

 結果、起立性低血圧の可能性がある、とのこと。

 通常、頓服薬が、3~4時間で切れることから、学校内や下校中の症状については副作用の可能性があるが、入浴中については違うのかな、と。

 ただ、起立性低血圧ならそれが説明できるとのこと。≫

≪今のところ、偏頭痛なのか、起立性低血圧なのか、併発しているのかは不明。

 あと、気を失うということであれば、可能性は低いがてんかんも考えられるので、次回診察前15時に脳波検査の追加予約が入りました。

 詳細は予約表で確認してください≫

≪今日は起立性低血圧の薬が処方されます≫


 学校には夫の方から連絡をして貰いました。

 すると、


≪学校側から、やはり登下校のことが心配なので、

①登下校は保護者が送り迎えをする

②登下校の送り迎えが難しい場合、2月5日(次回通院日)までは安全のため休ませる

 と提案されました。≫


 と返事があったようです。



 とんでもないことになりました。


 起立性低血圧(起立性調節障害)が二人……。


 次女は少しずつ回復傾向ではあるけれど、まさか長男まで。

 エッセイのコメントで、兄弟が、姉妹が、ということをしばしば目にしていたのですが、自分の子たちがそうなるとは、全く思ってもいなかったのです。



 そうして、ここから更に、事態は暗転していくのです。

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