受験~合格発表
8時50分まで席に着かなければ、受験ができない。
これは、高すぎるハードルでした。
起立性調節障害の症状が現れてから、なかなかすっきりと朝一人で起きることができない次女にとって、とてつもなく無謀な数字でもありました。
それでも、
「大丈夫、次女は何か行事があるときはちゃんと来てた。本番も大丈夫」
と、先生たちは励ましてくださいました。
次女も、
「起きれると思う。気合いで」
などと、何の根拠もないことを平気で言いました。
実際、当日の朝に次女がしっかりと起きていて、自分の身体を起こしていたことは驚きでした。
早く起こさなきゃといつもより早く起きた私より、もう少しだけ早く起きていたようです。驚いてひっくり返りそうになりました。
「お……、起きてる……!」
「起きてるよ?」
と、こんな感じです。
私は次女を高校に送り届けるため、休みを取っていました。休まなくても事足りたかもしれませんが、やはりそういうわけにはいきません。予測不可能なことが起きるのが受験というものです。
次男を送り、次女を受験会場となる志望校へと送っていきました。
8時50分からの開始、8時30分前後には着いていた方がいいはず。でも、会場前が混雑している可能性もある。ならばさらに10分以上前に着かなくては。
8時15分頃会場に着くと、既に先生方が車両の案内をしています。次々に車から降りていく中学生たち。それを送り届ける保護者の車列。
大分早い時間に着きましたが、お陰でゆっくり心構えることができたのではないかと思います。
「頑張って!」
次女に手を降って送り出しました。
後は野となれ山となれ。
まず、この場に来れただけでも。
正直、受験は心配していませんでした。何が心配だったって、朝起きられるかどうか。それだけです。
次女がちゃんと受験会場に、時間前にいる。
それがどれだけうれしくて、どれだけ感動ものだったか。
今まで、苦しんで苦しんで苦しんできた、起きることができなくて、本人が一番辛かった。それを、どうにか振り切るように受験会場にいる。
私はただその感動で、胸がいっぱいでした。
お昼前に受験を終えた次女を迎えに行き、頑張ったねとねぎらいました。
午後からは総合病院にて長男のMRI。
一時的に頭痛の治まっていた長男でしたが、MRIはさすがに気持ち悪かったらしく、途中でギブアップしてしまっていました。
「片頭痛は前兆があると思うけど」
MRI後の診察で先生に言われても、長男はピンとこなかったようでした。
「前兆があって、本格的な痛みが来る直前に飲めば効くはずなんだ。頓服」
アドバイスをいただきましたが、そのときはただうなずくだけでした。
帰りの車内で、
「ピキッとくることない?」
と私が尋ねると、長男は、
「あ、ある!」
と答えました。
「ピキッときたらすぐに飲めばいいんじゃないかな」
「あ~、そうか、うん。なんとなくわかった」
ただ、長男の場合、朝起きると既に頭痛が酷い場合が多く、果たしてその予兆に気づけるのかどうかは疑問でした。
翌日も、長男は頭痛でした。
その翌日も、具合が良くなりませんでした。
24日は夫が休みを取っていたようです。次女の合格発表がある日だったので、直接高校へ見に行こうと思っていたようでした。
せっかく休みなら長男を医者に診てもらってくれと夫に頼みました。長女のインフルエンザが移ったのかどうか、微熱もありましたし、具合も悪いままだったからです。
午前中に長男を小児科へ連れて行ったようですが、熱が出始めてからすぐだったのもあり、検査はしませんでした。インフルエンザらしい所見もないとのこと。漢方や吐き気止め、熱冷ましを処方して貰っていました。
発表は午後から。具合の悪い長男もいるし、受験さえできれば合格しそうな内容だったので、私は特に何の気なしに仕事をしていました。
と、昼休み中職場に突然、夫が現れました。
私は何かとんでもない事情があったのか、急ぎの用事かと慌てて休憩室から窓口に駆けつけ対応したのですが、なぜか怒ったようにスマホを突きつけられ、
「これ」
と写真を見せられました。
紙に書いた数字が大きく写真に写っていました。
「何」
訊くと、
「受かった」
「うん。良かったね。ところで長男は? 具合大丈夫なの?」
確か、長男の面倒を見て欲しいといったはずなのに、単身で職場に来たので、不審に思いました。
「長男は寝てるから家においてきた。合格したよ」
「それはいいけど、長男にご飯は食べさせた? 具合どう?」
「ご飯は食べてない。今朝、昼休みの時間帯確認したのに窓口にいなかった。どういうこと?」
「あのね。客商売なんだから、遅くなったり早くなったりするんだって。そういうことだけなら、別にLINEで良くない? そんなことより、長男のこと看てやってよ。苦しんでるんでしょ」
唸り声を上げながらこたつで丸くなる長男の姿を何日も何日も見ていた私は、夫の感覚との差にムッとしてしまったのです。
せっかくの合格発表だったのに、嫌な気持ちになりました。
そして、長男の具合が全く快方に向かわないことに、どんどん不安になっていきました。
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