ダメかもしれない

 次女の受験まで、あと10日。

 神経はいつもよりピリピリとしていました。

 長男の具合が芳しくなく、職場も休みがち。しかし、数字はやらなければならないので、気持ちだけが焦っていきました。


 例えば心的な要因、学校でのいじめが原因で頭痛が発生する場合もあるそうです。そういったときは大抵、休みの日は症状が出ず、登校日に具合の悪くなることが多くなると、そういう話もあります。

 しかし、長男は学校を毎日楽しみにしていましたし、何より学校に行けない日は、大好きなスマホゲームの話を友達とすることができない、それが一番の苦痛だったようです。ですから、学校が原因だとは到底考えられませんでした。そのことは、学校側にも伝えました。



 ところで次女は、土曜の受験講座も休みがちで、果たして本番に間に合うのかどうか微妙な感じでした。

 土日になるとゆっくりしてしまうのはよくわかるのですが、3月受験のほかの生徒とは違って、時間がありません。そういうこともあって、家で起床時間や睡眠時間について小言を言う機会も増えていました。それでも、私が介護休業を取る前よりはずっと状態はいいのです。そこがまた、次女に変な心の余裕を生ませている原因でもありました。


 13日日曜日、朝から具合が悪く、長男はその時初めて、片頭痛の発作薬を飲みました。薬が効いたのか、その日は日中、普通に過ごしたようです。

 片頭痛にしか効かないと言うことでしたから、それに違いないと、なんとなく思ったのを覚えています。


 14日祝日。また夜に頭痛。最後の一粒を飲ませました。

 連休明けに、普通に登校できますようにと、そのときは祈るしかありませんでした。



 明けて15日火曜日。

 朝からやはり、長男の具合は芳しくありませんでした。

 絶望でした。

 さすがに年明けから休みすぎていて、職場に休みの連絡をするのもはばかられるような状態です。このままでは職場にも多大な迷惑をかけてしまうし、連休明けで混雑するのは目に見えています。

 ダメだ、休めない。

 しかも、総合病院で貰った頓服も使い果たしてしまっていたのです。

 頭が痛いと唸る長男。手元には鎮痛剤のカロナールだけ。頭痛が始まってから何度もカロナールを飲ませましたが、殆ど効果はありませんでした。この状態で長男を家に置いていくことはできません。

「病院、連れてって欲しいんだけど」

 夫にどうにか休めないか頼みました。しかし、

「症状とか、どういう状態なのかよくわからないから、何かに書いて」

 世の中のお父さんはよくやりがちだと思うのですが、本当に、そんなことを平気で言うのですよ。今、子供を送り出さなきゃ行けない、自分の準備、弁当、全部やらなきゃ行けないのに、書く暇があるか。

「手帳に全部書いてるから、スマホで撮って」

 とても普通じゃないと思っていた私は、手帳に時系列で症状を全部書いていました。薬をいつ飲んだか、いつ頭痛を訴えたか、眠れた、眠れない、等々。

 私の仕事は営業で、夫は事務職ですが、夫曰く「自分が休んでも仕事がたまるだけだから」と、有休も殆ど取りません。現場と違って替えが効かないという理由のようでしたが、それは現場だって同じ。人数ギリギリのところで必死にやりくりしているのに、毎度毎度私だけが職場に頭を下げ、病院に通うのはおかしいと常々思っていました。

「とにかく、今日は休めないからお願い」

 夫は渋々休みを承諾しました。

「で、どこに連れてけばいいの。総合病院? 予約は?」

「予約はまだ先だけど、頓服がなくなったの」

「でも、総合病院って、予約ないと待つんでしょ」

「そりゃ待つけど」

「小児科は?」

「行ってもいいけど、前回ただの頭痛だって。今は総合病院で診てもらってるから、そっちに行った方がいいんじゃない?」

「え? そうなの?」

「自信がないなら、総合病院に電話して訊けばいいんじゃないの? とにかく、私は仕事行くから頼むね」

 こんな感じでバタバタと家を出ました。

 正直、本当にちゃんと連れて行ってくれるのか、心配でなりませんでした。


 次女はこの日、昼前にどうにか学校に行ったようです。

 受験のための面接の練習が始まっていたので、とにかく行けるときはちゃんと行くように言っていたのです。


 長男は、結局小児科に連れて行かれたようでした。

「え? 何で総合病院行かなかったの?」

「だって、総合病院に電話したらかかりつけでもいいって」

 というのが夫の言い訳でした。

 結局、小児科の先生は「総合病院で出した頓服の意図がわからないから、同じ薬は出せません」と、カロナールを処方してくださったようです。

 ガックリしました。


 この日長男は、頭痛が治まらず、夜もうなされ続けていました。

 普段は子供部屋で寝ていたのですが、頭痛が酷く、私のそばで寝させました。夜中、うんうんとうなり声を上げ続ける長男を、私はどうすることもできませんでした。

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