豪雨

 8月5日日曜日、夏休みの試練その2がやって来ました。

 朝から小学生以下はラジオ体操。その後町内会のクリーンデー、ゴミ拾いの日です。中学生も参加すれば、ボランティア活動をしたと内申書に書いて貰える大切な日なのですが、6時半からのラジオ体操など、最早狂気の沙汰なのか状態の次女は、この行事を迷うことなく見送りました。幼稚園児の次男もいたので、長女が一緒に連れて行ってくれました。

 夫は朝から地区の消防操法大会へ。結果如何に関わらず夜には酒盛りもあるので、戻ってこない予定です。


 そして、町で毎年行っている、受験生向け講座。有志の教員OBや大学生、塾講師などが、町内の中学生の希望者に、安価で勉強を教えてくれるという、とてもありがたいものです。長女の時も、この講座でしっかり勉強出来、とても助かった思い出がありましたので、次女にも受けさせたいと申し込んでいたのです。

 この講座で一番嬉しいのは、熟練度によってクラス分けしてくれること。基礎が分からないクラス、まぁまぁ出来るクラス、更に高みを目指すクラスと、三つに分けられるそうです。そして、不明な点はワンツーマンで指導してくださるとのこと。これは本当に願ったり叶ったりです。

 田舎町で、数年前まで受験対策のための塾が町内に存在していなかったため、長女の時は30分近くかけて隣の市まで塾に通う生徒もいたようです。こうした格差を埋めようと、町で設置してくれていた講座だったので、申し込まない手はありません。

 夏休みは三回、その後9月からは基本毎週土曜日午前9時から12時まで。1月の私立高校受験まで続きます。

 この手厚い制度に乗っかるには、当然“早起き”という難関が立ちはだかります。

 1年半以上勉強から遠ざかっている次女が巻き返しを図るには、この講座を有効に活用する意外に方法が見つからないと言っても過言ではないのです。


 更にこの日は、実家から菊の花の出荷を手伝うよう、以前から要請が来ていました。

 いつも頼んでいるパートさんが来られない日で、出荷最盛期のため、人手が足りないとのこと。妹家族は長女の習い事の関係で来られないため、人数だけは多いうちの家族が、消防団で行けない夫を除いて皆で行くことになっていました。


 夫がいないので、一人、スケジュールを整理しました。

 まず、朝はラジオ体操、クリーンデーは長女に任せて、子どもたちを連れてって貰う。

 私はその間、次女を起こして支度させる。

 クリーンデーから帰ってきたらご飯をなんだかんだ食べさせる。

 9時からの講座の10分くらい前には会場の公民館へ着いていた方が良いだろうから、その更に10分前には遅くとも家を出る。

 次女を公民館へ送り届けたら、その足で実家へ行き、手伝い。

 終わる時間を見計らって、実家から公民館まで30分ほどかけて迎えに行き、とんぼ返りでまた実家へ向かい、夕方まで手伝う。

 鬼スケジュールですが、これ以上どうしようもありません。


 長女に手伝って貰って、次女の準備。ついでに、手伝いで汚れると悪いから、他の子たちにも着替えを準備させ、荷物を纏めて車に詰め込みました。

 どうにかこうにか出発、公民館に10分前には到着しましたが、次女は目眩と頭痛で一人で車から降りることが出来ませんでした。身障者用のスペースに車を停め、長女が負ぶって車から出していたとき、そこにいた次女の同級生から声がかかりました。

「大丈夫? 連れてこうか?」

 女の子たちが数人いたのですが、荷物を持ってくれたり、長女の代わりに次女を負ぶってくれたりして、会場まで連れてってくれました。

「ありがとう! よろしく頼むね!」

 言うと、その子たちは笑顔を返してくれました。

 会場は公民館の入り口から直ぐに見える会議室でした。次女顔ぶられて会場に入っていく姿が見えたところで、私たちはホッと息を吐き、そのまま実家へと向かいました。


 朝から生憎の雨模様。

 天気は相当ぐずついてきていました。

 お盆用の菊は、出荷出来る時期が限られています。

 実家の車庫は刈り取ってきた菊の花で溢れていました。一本一本選別し、大きさごとに分けて束ねていきます。高さを合わせて切ったり、袋詰めしたりする作業には、とにかく人数が必要です。

 午前中、子どもたちは自家栽培している枝豆の摘み取り作業を頼まれていました。長女以下四人が枝豆をひとつずつ、枝から外していきます。

 私は少し離れたところで、菊の高さを揃える作業をしていました。

 お喋りして、楽しそうに作業をしている子どもたち。次第に雨がぽつりぽつりと降ってきましたが、それがまた面白いらしく、三女と次男は、車庫から出てワザと雨から打たれはじめました。

 丁度作業にも飽きてしまったのでしょう。長女と長男だけが一生懸命作業していて、下の二人は遊びに夢中です。

「濡れるから外出ない!」

 注意したのですが、次男は益々面白がって濡れ始めました。

 そのうち雨が土砂降りに。雷も鳴り始めました。

「ありゃ~、ヤバいなぁ」

 6月の下旬から殆ど降っていなかった雨が、一気に降り注ぎました。

 次女を迎えに行く時間にも、雨は大量に降っていました。最上川が増水してきているのを見ながら公民館へ行き、それからまた実家へと向かいました。


 本当に、驚くほど酷い雨でした。

 午後からは菊の袋詰め作業や選別作業をしながら、外の様子とスマホの天気予報を交互に見ていました。

 昼過ぎまで雨は降り続き、隣町では避難勧告が出始めました。

「こりゃ、夜は無理だなぁ」

 夕方と、朝露が降りる夜明け前に、父と母は田んぼへ行き、菊を刈り取ってくるのです。どう考えても、田んぼに向かうには酷すぎる天気でした。

 幸い朝のうちに刈り取った菊が大量にありましたから、悪天候時に無理して刈り取らなくても、明日の午前の作業分まで十分間に合いそうだったのですが、あまり強い雨と風は、好ましくありません。

 本当はこの日一日で手伝いを終える予定でしたが、

「明日も来れるか?」

 と父が聞いてきました。

「明日も次女の講座があるし、長女は部活があるから、皆が揃うのは午後からだけどいい?」

 と念を押して、翌日に仕事を持ち越しました。


 最上川や近くにある大小の川、用水路は水で溢れていました。市街地も水没した地点があったようです。

 水害時には水防も兼ねる消防団、本来なら早急に動かねばならなかったはずですが、生憎操法大会の打ち上げで酔っ払っていた夫の分団は警らに回り、他の分団の方々などが一部水没した町内会の排水作業を行っていたそうです。

 警報や避難勧告が夜も続いて、本当に大変な一日でした。


 

 

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