菊の手伝い
お盆用の小菊は、青果や農協を通じて、主に関東に向けて出荷されるそうです。
お墓参りの13日に小菊を買い求める人よりも、その前日に用意する人の方が多いだろうと踏んで逆算していくと、9日が出荷最終日になるよう調整しなければならないと父は力説していました。
花は傷みやすい商品なので、細心の注意を払いながら扱います。
例えば、葉が枯れていたり、変色していたりする場合は、該当する葉を取り除かなければなりませんし、お盆の時に花が開いていないといけないので、出荷時点で花の咲いてしまっているものは、出荷出来なくなります。
田んぼに植えられた菊は、1メートル以上の高さに育っていて、それを刈り取って、80センチ、70センチ、60センチと、生育状況に合わせて分別し、束ねていきます。
また、菊は乾燥に弱く、大きなバケツやいけすに出荷作業直前まで水に浸しておかなければならず、作業にも広い場所が必要です。
刈り取りは暑い時間にはまず行わないようです。日が落ちてから、昇る前、それぞれ日に二回ずつ刈り取り、出荷の準備なども含めると、殆ど寝る暇無く作業をしているようでした。
父曰く、午前1時前後に起床し、夜は20時から21時前後まで働いているそうですから、本当にハードな仕事だと思います。それでも、短期集中、この時期にガガッと稼げるということもあって、5年くらい前から菊の栽培を始めたのでした。
毎年8月の初めに父から私たちと、妹家族に召集がかかり、日を変えて手伝いをしていました。
去年も一日でしたが、皆で手伝いに行きました。
出荷の日が一日違うだけで、単価が何倍も違ってくる、本当の意味での季節商品なので、絶対に出荷は間に合わせなければなりません。
しかし、今年は天候が酷く、日照り続き。思ったように菊が生育せず、相当困ったようです。
5日に私たちが手伝いに行ったときには、雨の予報が出ていたのでせっせと刈り取ったらしく、車庫が全部菊で埋まっていました。
「実は、田んぼにまだ、2/3ほど菊が残ってる」
と、恐ろしいことを父は言っていました。
「とにかく、全部短期間に出荷するためには人手が必要だ。何人でもいい。とにかく来てくれ」
6日は前述の通り、午前中上の娘二人に用事があり、午前中に動けるのは私と長男、三女、次男のみ。三女と次男は役に立たないので、長男に頑張って貰うしかありません。
「小遣い稼ぎのチャンスだぜ……!」
頑張ったらお小遣いを貰えるとあって、長男を金で釣ってやる気を出させていました。
と、そんなときにやって来たのが、豪雨による水害です。
最上川が氾濫危険水位を超え、避難指示が一部地域に出されました。同じ学区の川沿いの世帯に避難指示が出ていました。
警報は続き、翌6日月曜日になっても、避難指示は続いていました。
県内では川が氾濫し、町中が浸水してしまったところもありました。崖崩れが起き、道路にも鉄道にも、甚大な被害が出ました。
雨は次第に弱まってきていましたが、場所によっては決壊の恐れがあり、電車は大雨の影響で運転見合わせ、バス代行も行わないなど、交通にも多大な影響が出ていました。
この雨で、長女の部活がなくなりました。そして、次女の受験生向け講座も休講となりました。
≪洪水警報で色々中止になりました≫
父にメールを打って、皆で朝から実家へと向かいました。
「良かった! 皆来てくれた! 助かる!」
山のような菊に埋もれ作業していた父は大喜びでした。
早速作業に取りかかります。
人数がいればいるほど、作業は早く終わるのです。
父は次女に、小さな菊の選別と袋詰めを頼んでいたようです。立ったり座ったりの作業が苦手なので、なるべく座ったまま作業出来るようにと与えてくれたのでした。
細かったり、未だ丈が短かったりして大束から弾かれた菊を、一本一本確認しながら小さな束にし、袋詰めしていく作業でした。袋詰めは三女と次男も手伝っていたようです。
父が言うには、
「次女の目は最高だ。仕事も丁寧で信頼出来る」
とのこと。
一本一本丁寧に見ているので、殆ど外れがなく、安心して直ぐに出荷に回せるとニコニコしていました。
防災無線が鳴り響く中、作業しました。天気は回復し、気温も上がり過ぎず下がり過ぎず、丁度いいくらいでした。
前日、車庫いっぱい溢れていた菊が昼間までには綺麗に片付きました。
「午後からは田んぼの菊を取りに行くぞ」
意気込んでいたところに、妹から連絡がありました。
午後から手伝いに来れるとのこと。
「人数がいればそれだけ沢山出来る」
妹たちは前日夜中にスポーツクラブの遠征から帰宅し、午前中休んで、午後からの参戦です。
家には私と妹、戦力にならない幼児と次女が残り、午後からは父と母が、私の長女、長男、妹の長男、長女を連れ、田んぼへと菊を取りに出かけました。
雨が上がり、日差しも強すぎなかったため、菊を取ることの出来るギリギリの天気だったようです。
残された私たちは、出荷用の段ボールの準備をしたり、小菊の出荷準備をしたり。しかし、殆どやることがなく、テレビを見たりスマホを弄ったりする時間ばかり。
「超つまんない……」
次女はもっと仕事を与えて欲しかったようで、ご機嫌斜めでした。
16時頃一旦父たちが田んぼから刈り取った分を持って戻ってくると、次女は、
「私も行く!」
と自分から声を上げました。
体調が悪いだろうからと、人数に入れていなかった父も驚いていました。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。多分」
そうして、次女は父たちと田んぼへと向かっていきました。
出荷準備を手伝い、早めに帰宅して良いと言われていた私は、三女と次男を連れて先に帰宅しました。
上の子たちは20時頃、父に連れられて家に戻って来ました。
19時過ぎ、日が完全に暮れる直前まで田んぼで手伝いをしていたようです。
翌7日火曜日午前3時半頃に父からメールがありました。
≪次女ちゃんが手伝い安心しています。夜型を帰るよう遅くまでしました!楽しい時間でした。≫(※原文ママ)
実はこの日、次女は診察のため9時半で家を出なければなりませんでした。朝からとても大変だったのですが、父が次女のことで喜んだのを見たのは久しぶりで、メールを見て、ニヤニヤしてしまったのでした。
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