職場体験

 7月5日木曜日、外は小雨でした。天気が悪いと具合も悪くなる次女、起きられるかどうか心配でなりませんでした。

 しかし、お弁当を詰め、朝ご飯を他の子たちに出していると、次女は起きていました。早く行かなければという緊張感があったようで、本当に奇跡でも起きたかのように目覚めていました。

「起きた?」

「うん」

 受け答えもハッキリしていましたし、トイレにも一人で立てるようです。

 相手方に迷惑をかけたらいけないと、前日も言っていました。間に合わないというわけにはいかないという強い気持ちで、起きることが出来たようでした。

 職場体験をする小学校まで、来るまで20分弱。早く早くと、ご飯を食べさせ、着替えさせ、髪を結い、歯磨きさせます。

「今日は、お姉ちゃんが別の小学校に行くから、幼稚園はその後ね」

 次男を乗せたまま、まずは職場体験先に行くことにしました。

 傘を持たせ、お弁当をスクールバックに詰め込んで、制服で出かけます。

「どこいくの? とおく?」

 次男は後部座席で、いつもとは違う風景を見て楽しそうに独りごちていました。

「具合悪くなったら先生に言うんだよ」

「うん」

「何時まで?」

「4時半」

 予定時間よりも少し早く到着し、傘を差して校舎へと入ったのを確認し、ホッとしました。

 やればできるじゃん。

 そう思うと、なんだか嬉しくて溜まりません。

 そのせいか、帰り道うっかりバイパスの出口を間違ってしまい、次男からブーブー言われてしまいました。

「ママと沢山ドライブ出来たから良いじゃん」

「よくないよ。ようちえんおくれちゃうでしょ」

 後部座席の次男はぶつくさ言いましたが、いつもより30分以上早く幼稚園に到着したのでした。


 帰りの時間まで、連絡はありませんでした。

 その間に、私はうさぎのチロルを動物病院に連れて行きました。最近ハゲが見つかり、どうも怪我をしているようだったからです。

「これ、怪我の治りかけだ。もう少し前からペロペロしてたでしょ」

 言われて、そういえばと思いました。

「そういう動きをするもんなんだなぁ、くらいにしか思ってませんでした。怪我してたんですね……」

「ペロペロするなら薬は出せないなぁ。そんなに心配するほど状態悪くないし、しばらく様子見て、酷くなったり、怪我が大きくなったりしたら教えて」

 ……と、とりあえず安心しました。

 次女ばかりを見ていればいいわけではなく、三女は乾燥肌で毎日入浴後のローションが欠かせないとか、ついでに虫歯の通知を持ってきたけど歯医者に連れて行くに行けないとか、長男の眼鏡が合わなくて、検査に行かなければならないとか。

 とにかく色々ありまして、そこにうさぎまで……。

 でもまぁ、獣医さんが大丈夫というなら大丈夫なんだろうと思いましたが、親指の爪くらいの大きさのはげの中に、それこそ爪のような形でひっかき傷があるチロルは、少し痛々しく思いました。


 4時半に迎えに行き、

「頑張ったね」

 と言うと、楽しそうにその日の出来事を教えてくれました。

 小さい子がとにかく可愛くて可愛くて仕方がなかったとか。

 懐いてくる子どもが沢山いたとか。

 絵を描いてあげたら行列が出来ちゃったとか。

 全部で4人、同じ小学校に行ったのですが、皆楽しく時間を過ごしてきたようです。

「明日は運動着で良いって。あと、天気良ければ水着? 持ってないし、具合悪いからどうせ入れないから、運動着だけでいいと思うけど」

 その後学童と幼稚園の迎えにも、次女に付き合わせました。

 学童にも中学生が職場体験に来ていて、知っている子だったらしく、少し話をしていました。

 幼稚園にもやはり中学生がいて、中に入ると手を振って合図していたようでした。


 翌日、またもや次女は早起きをして、きちんと朝から行きました。

 二日連続で!

 絵が得意な次女を羨望の眼差しで見るようになった男の子の話とか。

 次女の絵を沢山持ってった子の話とか。

 学校の先生、用務員さんなど、知っている人も多かったので、色々声をかけられたとか。

 とてもとても、良い経験をしたようです。


「傘忘れた!」

 初日は雨でしたが、二日目は晴れていました。それでうっかり忘れてしまったようです。

 気が付いたのは家に帰ってご飯の支度をしていたとき。学校に電話しても誰も出ません。

「そういえば、あの小学校、校長先生の方針で、早く帰るって言ってた!」

 次の日も土曜日だし、月曜まで待つ方がいいと思い、

「いいよ、後でママが取りに行くよ」

 と言いました。


 その日は、いい夕焼けでした。

 絶対に行くと決めていた職場体験を見事に終え、ホッとしたのと同時に、私が介護休業に入ったことで成し得ることが出来たのだということを改めて感じ、心が満たされていくのを感じました。

 

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