診断書
6月初めの地区運動会のため、小学6年生の長男が地区の同級生と共に練習を始めた4月下旬。
ゴールデンウィークとは名ばかりで、ただの飛び石連休だった私たちは、主に自宅で過ごしました。
映画『ちはやふる』の影響で突然百人一首を家で始めた長女に次女も付き合い、二人で楽しんでいたようです。
5月1日火曜日からは、突然の遅番勤務。Tさんが辞めたため、他に遅番出来る人がいなくなって、私にもその順番が回って来ました。勤務指定表を見過ごして定時で仕事に行き、出勤直前に遅番だと知って一時間、休憩室でプラプラしました。
残業無しで帰っても、早番で残業ありの場合とほぼ同じ時間に帰宅となるため、そこから迎えに行ってご飯作ってだと大変だなぁと思っていると、同僚が、
「私は遅番の方が良いな。朝のうちによるご飯作っておけば、帰ったら温めるだけで済むじゃん」
と裏技を教えてくれました。
早速、遅番の日、普段より一時間遅く出勤するため、弁当を作って朝ご飯を食べ、一通り朝の仕事を終えてから夜ご飯の下準備を一気に行うことにしました。一時間もあればご飯の準備は余裕です。なるほど、これはいいと、しばらくその方法で頑張りました。
ただ、一時間遅く出勤するということは、次女が学校に日中行けなかった場合、夕方学校に連れて行く時間も遅くなるということ。今まで18時半から19時頃には連れて行けていたのが、19時半近くにならないと連れて行くことが出来なくなってしまったのは大変でした。
「最近、来るの遅いね」
担任の先生に言われますが、どうしようもありません。
出席日数をとにかく確保しなくてはと、4月は9回、5月は13回、夕方送っていきました。
連休明けて5月8日火曜日、診察の日。
思い切って「診断書を貰いたい」と県立病院の先生にお話ししました。
「こういう内容で良いのか分からないけど、多分、文面に必要なことを書けば通ると思うんだよね」
言いながら先生はその場で診断書を作ってくださいました。
≪起床から覚醒、学校への登校を含めた日常生活全般に非常に時間がかかる。
単独では私生活が困難な状況で家人の介護を要する状態である。≫
「多分ね、≪家人の介護を要する状態≫って文字が必要だと思うから、書いておきます」
四六時中介護が必要なお年寄りや身体障碍者とは違い、介護が必要な時間帯が限られているため、診断書を書くのもなかなか難しいのだなと、先生が文面を考えて何度も書き直しているのを見て思いました。
翌日診断書を職場に持っていき、課長に話をしました。
申請用紙を用意することを約束して貰いました。
休むぞ、と思ったら途端に心が軽くなりました。
今まで気が張っていた分、休めれば少しだけですが心に余裕も出ますし、次女を起こすことに専念出来ます。
しかし、そのハードルは決して低くはありませんでした。
申請用紙を実際に見ると、なかなか難しいチェック事項が沢山並んでいます。
例えば、一人で5メートル以上歩けるか、着替えは出来るか、排泄、食事は可能か等々、恐らく普通の介護であればスラスラ書けるような事項ばかりです。
次女の場合、出来ないのは昼過ぎまで。夕方には全部自分で行うことが可能です。
困りました。
どうやってチェックすべきだろうと。
考えた末、“起床後4時間まではできない”と書き添えました。
難しい、本当に難しい。
どうにか申請用紙に記入し、課長に提出すると、後日部長から話がありました。
「許可の方向で動くけど、いいか」
「お願いします」
「6月1日から3ヶ月で大丈夫? 実際、この期間で結果は出せるのか?」
「給付金が3ヶ月までだそうなので、その間にどうにかします」
「もし治らないときは延長もあるから、早めに言って」
「わかりました」
こんな具合で申請しました。
その更に後日、今度はエリア統括店の店長も来店。エリア人事に関して権限のある方です。
「天崎さんの事情は聞きました。大変だね。これは権利だから、しっかり休みなさい」
小さなお子さんのいる統括店長は、思いのほか優しい言葉をかけてくださいました。
「ありがとうございます。命には関わらない病気なんですけど、進路には関わる病気なので助かります」
と告げると、
「中学3年生? これからが大事な時期だね。もしものときは延長も出来るから。まずは3ヶ月、しっかり休んで。仕事のことはどうにでもなるから、子どもさんのために頑張ってね」
職場の同僚には、実際店長決裁が降り、話せるようになってから話すことになりました。
年度が替わっても、相変わらず数字が伸びずあくせくしている職場でしたが、休むまでの間は頑張ろうと心に決めました。
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