病棟見学

 あまりにも食が細くなり、発病前より4kgほど痩せてしまった次女は、カウンセリングに行く度、

「何でも良いから食べましょう」

 と指導されるようになっていました。

 昼に普通の人の1/3程度、夜は普通、夜食を少しだけ食べるという生活は、身体には全く良いものではありません。もう少しどうにかしなければ、痩せ細っていく一方です。

 体重がある程度ないと、身体を支えきれないため具合が悪くなることがあるそうです。

 次女の場合は平均体重と比べてもかなり低くなっていたため、せめてあと5kgくらい増えないと、というような話をされていました。

 ラクトアイスではなく脂肪分が多いアイスクリーム、ヨーグルト、チーズなどの乳製品は、食べやすいので良いのではないかと、今まで食費削減のため殆ど買ったことは無かったのですが、次女のために買いました。他の子たちは羨ましがりましたが、

「次女が入院してもいいんだな!」

 と半ば脅迫気味に押さえ込みました。


 県立病院には入院施設もあり、このままでは何も変わらないのではないかという焦りから、一度見学をさせていただきました。

 小児病棟と一般病棟に別れていて、それぞれ個室で生活するようです。小児病棟には養護学校が入っており、入院中は養護学校に転入することで授業が受けられる仕組みになっていました。ゲームの時間や自由時間等、ある程度の制限はありますが、他の総合病院の入院施設と比べると、子どもたちの自由度はそれなりに確保されている印象です。

 ただ、小児病棟の入院患者は、殆どが男の子で、女の子は数人しかいないそうです。

 一般病棟に行くと男女比はまた変わるようですが、養護学校には転入出来なくなるということでした。

 次女のような起立性調節障害の患者の場合、起床時間になると専用の照明器具で凄まじい光を浴びせ、脳の覚醒を促す治療を施すと聞きました。ワット数は分かりませんが、目を閉じていても視界が明るすぎて視界が真っ赤になるくらいの光です。それを、顔から30センチほどのところで照射するのです。一週間から10日もするとだんだん早く起きられるようになるそうですが、効果は半々という、なかなか微妙なものでした。

「入院したからといって、起立性調節障害が良くなるとは限りません」

 県立病院の先生にはそうおっしゃいました。

「入院を切っ掛けとして治る子もいれば、全く治らない子もいます。50%くらいの確率で、何も変化が起こらないことがあります。ただ、病院は時間できちっと動きますから、入院をすれば規則的な生活をしますよ」

 と先生は付け足しました。

 それに、栄養をキッチリ考えた食事が出てくるのも、魅力のひとつではありました。

 入院病棟にはWi-Fiがなく、ネットに繋がらないのも、次女にとっては苦しいところだったようです。ガッティーナちゃんとの会話が出来なくなることを考えると、嫌だなという反応でした。

「受験生の子が入院しながらここの養護学校で勉強して、志望校に合格した例もあるよ」

 入院病棟の看護師さんが教えてくれました。

 学校に行きたくても行くことのできないくらい重度の起立性調節障害の子は、確実に存在します。入院という最終手段に出てまでどうにかしたいという親御さんの気持ちが、ひしひしと伝わってきました。

 治そうと思えば治る病気なのではないか、という気持ちは、常にありました。親が焦れば焦るほど、子どもは具合が悪くなっていくものですから、家でどうにも出来ないのであれば、何週間も何ヶ月もかけてプロにお願いするしかないというところに達するのでしょう。

 入院施設の見学はあくまで参考でしたが、“強い光を浴びせれば脳の覚醒が促せる”というのは大きな収穫でした。


 入院か、介護休暇か、という二つの選択肢がありました。

 しかし、小さな子たちも居る中で、次女が入院してしまうのは、明らかなる負担増であることが明確です。仕事をしながら、子育てと家事をこなし、更に病院にも通わなければならなくなります。職場から県立病院までは車で40分以上かかり、自宅を経由すれば一時間以上かかる計算です。

 仮に入院したとしても治る確率が半々な上、急にネット断ちすることで、次女が精神的に辛くなって症状が重くなってしまうことも考えられました。

「入院は現実的ではないね。となると、介護休暇かな」

 なんとなく、そういう話になっていきました。

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