のめり込んでいく
インターネットどころか、パソコンも普及していなかった1990年代。子どもだった私たちが同じ趣味の人と繋がるために利用したのは、雑誌や新聞を介した文通でした。
と言うと、娘達からは「マジか」と返ってきますが、実際そうでした。
漫画家志望ではあったものの、投稿しても箸にも棒にもかからず、同人誌活動を始めた友達に習って、自分も個人サークルを立ち上げてみたり、オリジナル限定サークルを作って会員を募り、会報を出してみたりと、色々やりまくった中高生時代。地元には自分の好きなジャンルで活動している人が少なすぎて、イベント会場でも浮きまくりました。
どうにもこうにもならず、同人系の雑誌で文通相手を探したり、グッズを交換したりしました。今で言うオフ会のようなものに参加するため、はるばる京都まで遊びに行ったのは、社会人になった年のことでした。
とにかく、昔は話そうにも電話しかありませんし、イラスト交換はお手紙だし、時間がかかりまくっていたのですが、今は全然世界が違います。私たちは、自分たちが子どもだったときには考えられないくらい進んだ文明に立っているのです。
次女はネットの世界にのめり込んでいきました。
これを周囲が良しとしないのは、お察しの通りだと思います。
実は長女が中学に上がったばかりの頃、このようなことがありました。
小学校ではそこそこ勉強が出来ていて、中学も一学期は余裕で勉強できていた長女の成績が、夏以降突然下がったのです。理由は、ネットゲームにハマりすぎたこと。iPod touchで気軽に接続できるのを良いことに、やれ19時だバトルだ、22時だバトルだと、ご飯よりも宿題よりもゲームのバトルにのめり込むことが多くなったのでした。
あまりの下がりように、長女は一時、
「私のiPod朝まで預かって!」
と自分から申し出たこともありました。
自制心でどうにかなる問題ではないと成績が落ちたことで気が付いたらしく、同じことを何度か繰り返しました。
高校生になった今でも、気が付くとゲームで一日が終わっていることがあり、朝早くに起きて勉強しているときがあるようです。
けれど、みんながみんな、自分の欲求をコントロールできるはずもなく。なにせ、体調が悪い次女は、朝ベッドから出るのも一苦労です。手元にある端末をタップするだけで楽しい世界が広がっているのですから、どんどんとネットにハマっていくわけです。
勿論、ネットの世界が全部悪いとか、ネットで友達を作るのが悪いとは言いません。
遠く離れた場所に住む人、世代の離れた人、リアルでなら絶対に出会うことの亡かったはずの人とコミュニケーションが取れるというのは素晴らしいことです。その出会いの中には、運命を変えるものもあるかも知れません。
しかし、ネット依存は心を蝕みます。
特に、学校に行くことに対して徐々に拒否反応を持ち始めている状態では。
「気まずい」
次女からそんな言葉が出るようになってきました。
「目線が気になる」
学校に行って、なんとか教室に行って。
気を遣ってくれる友達、普段通り好きなアニメの話をしてくれる友達も、当然いるとのこと。
その一方で、何も知らない他のクラスの生徒が、コソコソと何か言っているのも気になってきたと。
行きたくなくて行ってないわけじゃないのに、そういうことを言う人がいると、行く気が失せるとも。
「そんなの、気にしなくて良いじゃん。言わせておけば」
とは言いましたが、ナイーヴな時期には逆効果だったかも知れません。
「校内にも、次女さんと同じ症状で学校遅れてくる人は何人もいるよ。皆頑張って学校に来てる。一緒に頑張ろう」
先生はそう言いますが、本人は納得できません。
病気の重症度には個人差があります。
単に遅刻を繰り返す程度の人も居れば、休みがちになる人、全く登校出来ない人まで、様々です。
同じ起立性調節障害という診断を受けていたとしても、症状は十人十色であり、直ぐに治る人と何年もかかる人の間に大きな開きがあることを、学校側でどのくらい把握しているのか、どんどん疑問に思ってきます。
酷いときは頭を上げるだけでしんどい。
ご飯を食べようにも、お腹が痛くて食べられない。
食べないから力が出ず、立ち上がれない。
立ち上がれないから、横になってiPodをいじるしかない。
だからネットゲームやLINEチャットにのめり込んでいく。
学校では自分のことをわかってくれないけど、ネットの友達はわかってくれる。
楽しい。
この時間をもっと確保したい。
次女を見る限り、このように自身の動きが正当化されていったようでした。
しかし、どう考えても、これでは引きこもりまっしぐらです。
学校側から、「カウンセリングしてはどうか」と打診がありました。
3月に生徒が自死したことにより配置されたスクールカウンセラーの方との面談を強く勧められたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます